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2018.11.1 コラム一覧に戻る
指導助言義務について@
弁護士 内橋 一郎

1.本年10月12日〜13日、長崎市で第80回先物取引被害全国研究会が開催され、その企画(ミニシンポジウム)「重要判例を読み解く〜指導助言義務について」で、パネリストとして参加してきました。ぼくは、指導助言義務に関する最高裁平成17年7月14日判決の才口補足意見と以前に担当した大阪高裁平成20年8月27日判決について報告しました。その時の報告について今回、このコラムで述べたいと思います。

2.最判H17年7月14日と才口補足意見
(1)最高裁平成17年7月14日判決というのは、中堅クラスの水産会社が、日経平均オプションの売りを多数購入したために被った損害(2億数千万円)の賠償を証券会社に求めた件に関して、最高裁平成17年7月14日判決は、被控訴人は経験を積んだ投資家である等の理由で、適合性原則から著しく逸脱したとはいえず不法行為責任はないとした判決です。
才口補足意見は、法廷意見を補足して才口判事が意見を述べたもので、オプションの売り取引は損失が無限定ないし莫大なものになる危険性を孕むもので、証券取引の中で最もリスクが高いため、被上告人のような経験ある投資家であっても、オプションの売りに異常に偏った状況ではリスクを的確にコントロールすることが困難であるから、取引を勧誘し手数料を得ている証券会社は、オプションの売りに異常に偏った状況を改善、是正させるため、積極的に指導助言する信義則上の義務を負うのが相当であるとしたものです。
この指導助言法理については、3つのキイワードがあります。
1つは、「被上告人のような経験ある投資家」という属性に関するものです。
2つは、「リスクコントロールができなくなる状況」という指導助言義務の要件に関するものです。
3つは、「改善、是正するように指導助言」するという義務の内容に関するものです。  
 この3つのキイワードに従って説明していきたいと思います。
(2)経験を積んだ投資家
まず最初のキイワード「被上告人のような経験を積んだ投資家」ですが、どの点に着目するかというと、被上告人がどのような投資家であったかという点です。
被上告人は、5つの水産卸売りの会社が集まってできた、資本金1億2000万円、売り上げが年200億から400億円という、それなりに大きな会社です。水産業の本業だけではなく、財テクにも熱心で、株式現物、信用、国債先物、外貨建てワラント、オプション取引等の多様な投資経験がありました。年間売買総額は200億〜300億円と大規模なものです。S61年には1億円を超える実現益、62年には逆に1億円以上の値洗い損が発生したことがあり、63年には1億5000万円の確定利益を得ています。投資意向も、手堅い商品に限定して投資するというよりも、多少リスクがあっても、できるだけ利益をあげたいというものです。経営者も、株式現物、信用、先物取引等の豊富な経験があり、財務担当専務にも相応の取引経験がありました。いわばプロ投資家に準じるような、洗練された投資家といえると思います。
最初の着目点は、そういったプロ投資家に近い、洗練された投資家に対して、証券会社はなぜ、指導助言義務を負うのかという点です。
指導助言義務ないしは助言義務の根拠については、信認義務とか専門家責任等の考え方がありますが、ぼくはこの最判のケースでは、証券会社がプロフェッションであるからだと考えます。これだけ洗練された投資家ですので、取引が一任ということはあり得ず、一任に基づく信認義務というのはこのケースでは説明しにくいと思います。むしろ取引は証券会社との協働行為によるものであるが、それでも指導助言義務を負うのは証券会社がプロ中のプロだからだと思います。その源流にある考え方は、我妻民法講義にもある「周到な専門家」の責任にあるのではないかと考えています。
(3)  リスクコントロール
2つ目の着目点は、最判のケースでは、オプションの売りに偏った状況においては「リスクコントロールができなくなる」とされている点に関連して、指導助言法理が妥当するのは、オプションの売りなどのデリバティブ取引に限られるのかという問題があります。というのは、株式取引の現物取引や信用取引のケースにおいて、指導助言義務を主張すると、証券会社の側から、指導助言法理は、デリバティブ取引等に限局されるという主張がなされることがしばしばだからです。、山下友信教授は、保険法(上)の中で、その趣旨のことを述べられています(275頁注152)。
しかし、経験ある投資家といっても様々で、そのリスクコントロールが困難になる状況も投資家によって異なります。最判のケースでは、プロ投資家に近い、洗練された投資家ですので、リスクコントロールが困難な状況というのは、オプションの売りの異常なまでに偏った状況という極限的な場合になるのでしょうが、投資家属性が緩くなってくればリスクコントロール困難性も変わってきます。
このミニシンポジウムで後に検討される大阪高裁20年9月26日判決は、ガソリンスタンドを経営している資本金2000万円の株式会社が、商品先物取引のガソリン取引をして大きな損害を被ったことに関して、先物業者に損害賠償を請求したケースです。ガソリンスタンドを経営している会社にとってガソリン取引は本業で、プロです。しかし、商品先物のガソリン取引はある種、異形の世界でもありますので、その意味では素人性もあります。ガソリン取引という実業の世界ではプロでも、商品先物という虚業の世界ではアマチュアということがあると思います。その意味で、ここでは一任的要素もあり、信認義務ということもあり得ると思います。
また、法人ではなく個人ではあるが個人事業主であり、かなりの証券取引の経験のある投資家ではどうか、さらにサラリーマンではあるが商品先物の経験のある方が商品先物取引を行った場合はどうかという問題が出てきます。
これらは指導助言法理の適用要件の問題であると思います。 
(4)   指導助言義務から助言義務へ
3つ目の着目点は、指導助言義務の内容に関するもので、既に発生しているリスクコントロールが困難になっている状況を改善、是正する助言に止まるのかという点に関するものです。
最判の才口補足意見に示された指導助言義務は、経験ある投資家、リスクコントロールができなくなる状況、状況を改善・是正するための助言という、ある程度、限局された法理で守備範囲は限定されています。そこで、もう一歩進めて、そういった局面に限局されない、もうすこし広範な助言義務を構想することも将来的な課題であると思います。
この助言義務を構想するヒントも、既に才口補足意見に示されているようにも思えます。
つまり、経験ある投資家に対してでも指導助言義務が課されるというのですから、経験のない投資家、あるいは経験の乏しい投資家であれば、なおさら保護が必要になってくると思います。
1つ分かりやすい例をあげれば、先物取引の新規委託者保護は、経験のない投資家に対する保護であり、その中には助言義務も含まれると思います。現在、新規委託者保護は専ら投資可能金額の3分の1という量的な規制とされていますが、質的な規制を及ぼすことも可能ではないかと思います。例えば、建玉が損勘定になった場合の対応として、仕切り、追証入金、両建て、難平があるとして、それらの取引手法を説明するだけではなく、新規委託者の場合は、損切りを第一選択として、助言することが求められる場面もあると思います。
さらに、商品先物取引を開始する場合に、仕組みやリスクの説明だけではなく、今後、どういった投資方針で取引を行っていくのかという投資方針助言義務を導けないかとも考えております。

以上

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