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2020.3.30 コラム一覧に戻る
医療過誤訴訟勉強帳E 〜術後管理における医師の看護師に対する指示の適否 (福岡高判H31年4月25日:判時2428−16)
弁護士 内橋 一郎


1.  事案の概要
・  大学病院において、クローン病の治療のために回腸結腸吻合部切除術等の手術を受けた患者が、手術後、腸から出血し、出血性ショックによる低酸素性虚血性脳症で、高次脳機能障害の重篤な後遺障害が残ったことに対し、患者及び親族が病院、医師らを被告として損害賠償請求を行った。
・  術後管理が適切であったかが大きな争点となった。

2.  裁判所の判断
(1)  出血の予見可能性
・  クローン病の特徴の1つとして突然の大量腸管出血があり、ときには致死的出血に至る場合もあること、多くの場合、出血の徴候を把握することが極めて困難であり出血源の同定すら困難な場合が少なくないこと、クローン病の既手術例においては術後1%以上の割合で再出血が発生する報告もある。
・  これらの事情を総合すると、過去2回に及ぶクローン病の手術歴のある患者において本件手術の術中6000mlもの出血があった以上、大学病院医師らにおいて、本件手術の急性期に出血を来すことを予見することは可能であり、本件手術後の急性期においては術後出血を念頭においた術後管理が求められていた。
(2)  術後管理のための指示
@  術後管理のための指示
・  術後急性期においては術後出血をあらかじめ起こり得る合併症として念頭に置き、早期発見・早期治療に努めるべきであるとされていることからすると、出血性ショックの診断と治療が速やかにされるような管理が求められるというべきであるから、医師が看護師に対して術後管理のための指示を行うに当たって、出血性ショックか否かを医師において迅速に判断できるような内容の指示を行う必要がある。
・  特に、被告病院は各科ごとに当直医がおらず、入院患者の急変時においては、心肺停止等緊急時を除き、当直医ではなく主治医に連絡するという体制であったところ、看護師が主治医への連絡の要否を逐一判断していたのでは重篤な事態に陥る恐れがあるから少なくとも出血性ショックを疑わせる重要なバイタルサインについては、主治医に連絡をすべき場合を具体的数値で示すなどした上で明確に指示することが求められていた。
・  加えて、本件においては。術後管理に係る医師らはいずれも自宅に帰宅するとの判断をしていたのであるから、医師が看護師からの連絡を受けて患者の下に到着するまでの時間も考慮して、より早期の徴候が生じた時点での連絡を指示することが求められていた。
・  出血性ショックについては、収縮期血圧と脈拍数が出血量推定の最も良い指標とされていることを踏まえると、医師としては、収縮期血圧と脈拍数に主に着目した術後指示を行うべきであった。
・  医師としては、少なくとも、収縮期血圧と脈拍数につき具体的数値を示した上で明確に指示すべきであった。
A  本件指示の適否について
・  証拠によれば、初期の出血性ショックでは収縮期血圧の低下が見られないことが認められるから、脈拍が120回を超える一方で収縮期血圧が90以上の場合には、脈拍数や収縮期血圧の経時的変化を綿密に確認し、中等度ショックを示す収縮期血圧の低下が見られた場合には直ちに医師に連絡されるよう併せて指示を行うべきである。
・  被告病院医師の指示は、収縮期血圧を80から140の間で維持し、80以下となった場合にはいったん昇圧剤であるイノバンを増量し、それでも70台を継続する場合には主治医に連絡するという内容であった。
・  本件指示は、脈拍数については何ら触れておらず、口頭での指示もされておらず、初期の出血性ショックでは収縮期血圧の低下を認めない場合もあることからすればこの点においてまず不適切であった。
・  本件指示は、収縮期血圧が90を下回り、さらに80を下回った場合においてすら、看護師において直ちに連絡することを要さず、昇圧剤の増量のみで対応し、なお70台を継続するに至って初めて医師に連絡するという内容であり、「継続する」ことの意味も曖昧であるから、この点でも医療水準に反した不適切なものであった。

3.  備忘メモ
・  術後管理における医師の看護師に対する指示は、具体的数値を示した上での明確な指示であり、医師が連絡を受けて患者の下に到着するまでの時間を考慮してより早期の徴候が生じた時点での連絡が求められるとし、出血性ショックにおいては収縮期血圧と脈拍数につき具体的数値を示した指示が必要とした。
 

以上

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