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2005.05.06 コラム一覧に戻る
先物取引の新ルール〜改正商取法が5月1日から施行
1, はじめに
商品先物取引に関する基本法である「商品取引所法」が2004年に改正され、「本年5月1日から施行」されます。
この改正法は委託者資産の保全制度の拡充、商品取引員に対する規制強化、市場の信頼性・利便性の向上等多方面に及ぶものですが、ここでは委託者として一番気になる「委託者保護規定」に関する重要な改正ポイントについて説明します。
2, 不当な勧誘等の禁止
(1) 勧誘の告知・意思確認義務
まず商品先物取引業者(以下「業者」といいます)は電話勧誘ないし訪問勧誘を問わず、勧誘に先立って、「会社の名称」と「これから勧誘するのが商品先物取引であること」を告げ、顧客がその勧誘を受ける意思があることを確認しなければなりません(214条7号)。
例えば、長々と世間話をしたり、あるいはアンケートと称して会話に引き込んだ後に先物取引の勧誘をすることはこの規定に違反します。
また「これから先物取引の勧誘をさせてもらっていいですか」と聞かなかったたり、あるいは顧客がそれに対する返事をする前に勧誘をすることも許されません。
(2) 委託を行わない旨の意思を表示した顧客への勧誘禁止
顧客が「委託を行わない」と言っているのに対し、業者が委託を勧誘することは許されません(同条5号)。この場合、(委託の)勧誘を受けることを希望しないと言っている場合も同様です。
その場で続けて勧誘するだけでなく、改めて日時を代えて出直して再度、勧誘することも禁止されます。
(3) 迷惑な仕方での勧誘禁止  
顧客が迷惑を覚えるような仕方での勧誘も禁止されます(同条6号)。
迷惑な時間帯、例えば、夜間・早朝・勤務時間内に電話・訪問することはこの規定に違反すると考えます。また長時間にわたる勧誘や威迫・困惑・不安の念を生じさせるような勧誘も同様に許されません。
3, 適合性原則
(1) 適合性原則
業者は顧客の知識・経験・財産状況に照らして不適当と認められる勧誘を行ってはならない(215条)とされており、これを「適合性原則」といいます。いままでは違反した場合に業務改善命令の対象とされてきたのですが、改正法ではより明確な形で、行為準則とされました。これに違反すれば当然民事上違法になります。
そして適合性原則について、行政解釈である「ガイドライン」が策定されたのですが、これによれば、業者は顧客に適合性原則の趣旨を説明した上で、顧客の知識・経験・財産状況に関する情報の提供を求め、顧客の属性の把握に努めることを求めています。
(2) 不適格者に関するガイドライン
またガイドラインは適合性原則に照らして不適当と認められる勧誘を「常に不適当な勧誘」と「原則として不適当な勧誘」に分けて例示しています。
「常に不適当と認められる勧誘」として、未成年・成年被後見人、被保佐人、被補助人、精神障害者、知的障害者、認知障害の認められる者、生活保護世帯に属する者、破産者(復権を得ない者)に対する勧誘、先物取引を勧誘するための借入の勧誘をあげています。
また「原則として不適当な勧誘」として、年金等で生計を立てている者、500万円以上の収入を有しない者、投資可能額を超える証拠金等を必要とする取引に係る勧誘、75歳以上の高齢者をあげています。
さらに本店管理部等営業部門とは独立した管理部門によって、適格性に関する厳格な審査をすることが求められています。
(3) 取引未経験者の保護
ガイドラインは、過去において先物取引の経験がない者(全く経験のない者のみならず、取引経験があっても過去3年以内に延べ90日未満の取引経験した有しない者)については、最低3ヶ月程度は投資可能額の3分の1以内の取引量に止めるよう求め(目安)、これを超える場合は原則として不適当な取引であるとしています。
4, 説明義務・損害賠償責任
(1) 書面交付義務・説明義務
業者は説明に先立って、法定書面(217条1項書面)を交付し、先物取引の仕組みやリスク等について顧客が理解をできるような説明をしなければならない(218条1項)とされています。
業者は@先物取引が証拠金の10倍から30倍の額の取引を行うものであり、相場の変動幅が小さくとも取引額全体では大きな額の変動が生じるハイリスク・ハイリターンの取引であることを説明すべきであり、Aまた預託証拠金が短期間に毀損するおそれがあり、預託額を上回る損失が発生すること、Bその他施行規則で定める事項を説明しなければならず、顧客が理解していることを書面で確認しなくてはなりません。
(2) 損害賠償責任
そして上記説明義務に違反して説明しなかったために顧客が損害を被った場合には損害賠償責任を負う旨が明記されました(218条2項)。
5, まとめ
以上、改正法の概要を簡単に述べました。
まず、勧誘目的告知・受託意思確認、再勧誘禁止、迷惑勧誘禁止等の不当勧誘規制が法律で明文化された意味は大変大きいと考えます。業者はまず勧誘に先立って先物取引の勧誘であることを告げなければならず、顧客がこれに対して、話しを聞かない、あるいは途中まで聞いても関心がない等と断れば、業者はそれ以上、勧誘を続けることができなくなるのですから、これまでのように、金地金の販売だと称してアポイントメントを取った後で、先物取引を勧誘したり、あるいは断っているにも長々と勧誘を続けることはできなくなりました。
適合性原則との関係ではガイドラインが不適格者を例示したこと、新規委託者保護の内容(対象、期間、建玉制限)を明示したこと等が重要だと考えます。確かにガイドライン自体、不十分であったり(例えば、不適格者である高齢者を75歳以上としている等)、あるいはガイドライン違反が直ちに損害賠償責任を意味するわけではありませんが、業者に対してアウトライン(外枠)を明示することにより、いままでよりも勧誘が抑制的になる効果は期待できますし、また重要な行政解釈に違反するのですから、事実上、違法性が推認され、損害賠償責任が認められる可能性も高いと考えます。
説明義務との関係では、顧客が理解していることを書面で確認することが求められていますが、これまでも、顧客が仕組みや危険性を理解していないにもかかわらず、「形式的なものですので、ここに署名して下さい」等と称して、理解している旨の書面を徴収しようとすることがしばしばありますので、署名捺印には十分に注意することが必要です。
先物取引に誘われても、はっきり「ノー」と言うこと、署名捺印を求められても納得がいかなければ断る等が重要だと考えます。

(内橋一郎)

以上

弁護士内橋一郎
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