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2005.07.11 コラム一覧に戻る
悪質リフォーム被害と高齢者保護A
3, 書面交付義務違反とクーリングオフ
(1)  訪問販売にあっては申込者が契約書面を受領した日から起算して8日以内であれば「クーリングオフ」により無条件に解除することができる(9条1項)。
   消費者が申込書面または契約書面を交付されていない場合(書面不交付)にクーリングオフの起算日は進行せず、消費者はクーリングオフの権利を失わない(通達)。
   従って悪質リフォーム工事が終わっても、申込書面または契約書面の交付を受けていない場合にはなお、クーリングオフが可能である。
(2)  また交付された書面の記載事項に不備がある場合には同様に解することができる。
通達は「書面に重要な事項が記載されていない場合もクーリングオフは進行しない、特にクーリングオフに関する記載事項が満たされていない書面は申込書面または契約書面とは認められない」としている。
   では、その欠落が書面不交付と同じ効果を持つような、「重要事項」とはどの範囲をいうのであろうか。
   この点については@契約条件(商品の販売価格および役務の対価、商品の代金および役務の対価の支払時期・方法、商品の引渡時期・役務の提供時期、商品名、商品の商標または製造者名、商品の型式または種類・役務の種類、商品の数量)A事業者の特定に関わる事項(事業者の氏名または名称、事業者の住所)、Bクーリングオフの告知、C契約日付が、その機能から見て重要事項で、たとえ1事項欠落しても、クーリングオフ期間の起算点としての契約書面等の受領はないとすべきであるとの考えが有力である(清水巌、圓山茂夫)。
(3) クーリングオフの効果
@  クーリングオフにより、その申込は撤回され、契約は解除される(9条1項)。
A  消費者がクーリングオフを行使した場合、事業者は損害賠償や違約金の請求をすることができない(同3項)。
B  既に引渡済みの商品の引取費用、既に移転済みの権利の返還費用は業者側で負担しなければならない(同4項)。
C  事業者は、提供済みの役務の対価等を請求できない(同5項)。
D  事業者は、役務提供契約に関連した金銭を速やかに返還しなければならない(同6項)。
E  消費者の土地・建物その他工作物の現状が変更された場合は、事業者に対し「原状回復措置」を無償で講じるよう求めることができる(同7項)。
   例えば、取付工事で壁に穴をあける、修繕工事で床を抜く、水回り工事で土間のコンクリートを割る、外壁工事で足場を組む、壁を外す、屋根工事で瓦をおろす、庭の改良で地面を割る、床下換気扇の取付のために基礎に穴をあける等である。
   原状回復措置を請求できるが、工事状況によっては原状回復をしなくてもいい。
4,  行為規制違反と不法行為(債務不履行)、暴利行為と公序良俗違反
(1)  特定商取引法は事業者の行為を規制するルールを定め、行政処分ないし刑罰を課するものとしているが、悪質リフォームの場合、以下の規定が問題になることが多い。
@ 氏名等の明示義務
事業者は訪問販売をする時は、その勧誘に先立って、その相手方に対して、事業者の氏名・名称、契約の締結について勧誘をする目的であること、商品等の種類を明らかにしなければならない(3条)。
   消費者に玄関ドアを開けさせるために様々な口実が駆使されるが、本条は不当勧誘防止の観点から、勧誘に先立ち、事業者の名称、勧誘目的、商品等の種類を明示することを求めたのである。
   例えば、床下補強工事の勧誘で「シロアリの点検に来た」というのは許されない。
   また過去に消費者に商品Aを購入した消費者宅を訪問して、商品Aの点検を行った後で商品Bを勧誘する例では当初から商品Bを販売しようとする意図があるので、商品Aの点検と商品Bの勧誘は一連の勧誘と評価される(圓山123頁)。
A 威迫困惑、迷惑な勧誘
事業者は契約締結ないし契約申込の撤回、解除を妨げるため、人を威迫・困惑をさせてはならない(6条3項)。
   「威迫」とは脅迫に至らない程度の、人に不安を生ぜしめるような行為、「困惑」は困り、戸惑わせることをいう。
   また不実告知、威迫困惑には至らないが、「迷惑」を感じるような行為をして勧誘したり、契約解除権の行使妨害も許されない(省令7条1号)。
B 判断力不足に乗じた販売の禁止、適合性原則違反
老人その他の者の判断力の不足に乗じ、訪問販売の契約を締結するは許されない(省令7条2号)。ここに「判断力の不足」とは、意思無能力、成年後見を受けている者等に限らない。いわゆる「まだらぼけ」、計算能力・生活設計能力の低下、どんなはなしでもうなずく傾向など合理的経済人として損得を計算できる能力の不足を指すとされている(圓山146頁)。
顧客の知識、経験、財産状態に照らして不適当と認められる勧誘は許されない(省令7条3号)。
   建築工事について知識がない高齢者宅を訪問し、消費者が理解できるような説明をせず、次々と屋根、外壁、床下補強、風呂・トイレ・台所などのリフォームを行い、1000万円以上の工事を請け負った場合は知識、経験、財産状態に適合しないものと考えられる。
(2)  特定商取引法の上記規定は事業者に対する行為規制であり、行政法規ではあるが、その趣旨はそのような勧誘対象とされる消費者保護にあるのだから、行為規制違反は私法上の違法性を基礎付けるものとして、かかる一連の勧誘により、消費者が損害を被った場合は全体として不法行為ないし債務不履行を構成すると考えるべきである。
(3)  また悪質リフォームにおいてはその工事のひどさとは裏腹に工事代金が異常に高額である。冒頭に述べた逮捕事案では、市価の5倍の代金を請求していたが、そのように市価の数倍を超える場合には「暴利行為」を構成し、「公序良俗」に違反する(民法90条)ものと考えられる。
   よって、リフォーム契約は無効であって、消費者は交付した代金の返還請求をなしうると解すべきである。
5,  迅速な対応の必要
以上のとおり、悪質リフォーム業者に対しては支払った代金の返還請求をなしうると考えられるが、悪質リフォーム業者の場合、消えてしまう可能性が高い。
   従って理論上返還請求が可能であったとしても、現実には時期が経つと回収できない場合も多数出てくる可能性があるので、早期に対応することが必要であると考える。

(参考文献)「圓山茂夫・詳解特定商取引法の理論と実務」

以上

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