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2005.10.26 コラム一覧に戻る
MRSA感染症をめぐる医療過誤訴訟の現況についてA
5,平成13年10月30日大阪地裁判決(判例タイムス1106号187頁、確定)

  原告らの子A(3才)が脳腫瘍に罹患し、平成7年10月、市民病院に入院したのですが、脳腫瘍摘出後、術後管理が不適切であるため、12月、MRSAに感染し、化膿性髄膜炎の罹患し、化膿性髄膜炎の治療に時間をとられた結果、カルボラチンによる化学療法が遅れ、腫瘍が増大したのであり、化学治療の遅れがなければその時点で死亡しなかった高度の蓋然性があるとしてAの死亡につき、損害賠償責任を認めた事案です。
  判決は、脳腫瘍摘出術後の合併症として髄膜炎があり、縫合部では髄液漏を起こしやすく、Aは実際、髄液漏を起こしたが、市立病院は患部を十分に消毒し、ガーゼ等で患部を十分に被膜し、ガーゼを固定すること等により、医療関係者又は第三者が患部や患部から露出した髄液等に接触して発するMRSA感染を防止するため適切な措置を講じる義務を負っていたにもかかわらず、患部を露出させたまま、一時放置し、患部の消毒や被覆について適切な措置を講じなかったため、MRSAによる化膿性髄膜炎に罹患したとしました。
  そして判決は、事実認定中で、原告らは看護婦にガーゼをきちんと固定するよう求めたが、ガーゼによる被告及びガーゼを固定する措置が十分ではなく、その後、看護婦がガーゼ交換して絆創膏で固定する措置が何度か繰り返されたこと、看護婦等は必ずしも十分に手指の消毒をせず、ドアノブやベッドの器具を触ったまま、ガーゼの交換をすることがあったとしたのですが、そのような認定をした理由として、証拠保全申立の際に提出した陳述書で、看護婦の処置が不衛生であることが既に指摘されており、信用性が高いとした点が注目されます。

6,平成13年3月22日前橋地裁高崎支部判決(判例タイムス1120号247頁、控訴棄却・確定)

  原告らの子A(15才)は、生まれつき心房中隔欠損症であったため、大学病院で手術や治療を受けていたのですが、Yの経営するB病院を受診した際、僧帽弁閉鎖不全症と診断され、人工弁置換手術を受けることになって、平成8年9月24日、相手方病院に入院し、翌25日、右手術を受けました。ところが、右手術後、Aには痛みや発熱が続き、Aの白血球数やCRP値の高い数値で推移したうえ、同月28日、Aの心のうに設置されたドレインから白色混濁の物質が検出される等の現象もみられました。相手方病院ではAに薬剤投与等の治療を行うと共に、10月1日、Aの血液を試料として外部機関に菌培養同定検査及びMRSA薬剤感受性検査を行ったのですが、その結果、Aの血液からMRSAが検出されました。相手方病院は同月5日、Aに対しバンコマイシンを投与して治療を行いましたが、麻痺、出血は続き、同月26日、MRSA感染症を原因とする低心拍量症候群で死亡するに至りました。
  判決は、Aが相手方病院に入院していた期間及びその前後に、Aの外に4名のMRSA保菌患者が入院しており、MRSA保菌者にバンコマイシンを投与していた事実から、Aの症状いかんでMRSA感染を疑って治療を行う義務があるとした上で、Aの症状の推移、特に9月28日に心のうドレインから白色混濁の物質が検出された事実はMRSA感染の重要な兆候であり、また菌培養同定検査の結果によりMRSA感染が明確化する以前でもバンコマイシンを投与すべきであったとしました。
  本件では(公的)鑑定はなされず、原被告双方から意見書が提出されている。被告側意見書がAの心のうドレインから検出された白色混濁の物質はタンパク質と確認されたとした点につき、判決はそのようなことは証拠上確認されていないとして、判断の過程に誤りがあるとして排斥しており、私的意見書(鑑定書)の信用性が結論を分けることになりました。

7,平成12年3月21日静岡地裁判決(判例時報1726号148頁、控訴)

  原告は、平成4年6月29日、相手方病院(静岡日赤病院)で生まれたが、間もなく頻回の嘔吐と著明な体重減少が認められたため、7月1日から同病院小児科に入院しました。
  7月8日から発熱、不機嫌、むつき交換時に激しく泣く、同日、咽頭粘液・股静脈から採血検査でMRSA検出、フルマリン、ホスホマイシン投与、一旦下熱傾向を示すが、再度発熱、14日からハベカシン投与、同日、診察したW医師は股関節を進展させようとすると激しき泣くことから、化膿性股関節炎、大腿骨骨髄炎を鑑別すべき旨を記録、15日、16日、17日と診察した小児科のN医師は骨を含まない軟部組織の炎症を疑い、18日はMRSAを起因菌とする敗血症による右下肢蜂か織炎と診断した。15日は股関節炎X線写真を撮ったが、写真上異常を認めなかったが、後に写真を見た整形外科医は大腿骨と座骨との距離が左よりも離れている点が指摘された。20日、バンコマイシンが点滴されたが、同日撮影されたX線では大腿骨頭15日よりも変形していた。N医師はなお、蜂か織炎の診断を保持し、外科に治療を依頼したが、外科から整形外科の診断をあおぐよう助言されました。21日、整形外科で診察を受けたところ、切開排膿の緊急手術を要するとの診断で、同日切開排膿術が施行された。整形外科では股関節炎の発症は7月8日で、膝への転位は20日との診断でした。原告は9月15日退院したが、化膿性関節炎により、右大腿骨骨端の成長が阻害され、関節炎の予後がよくなく、運動制限や痛みが残存する可能性があります。原告は、小児科医が相当に注意を払っていれば、股関節炎をより早期に発見し得たのであり、股関節炎と診断されれば、早期に切開排膿により結果の発生を防ぐことができたとして損害賠償を求めました。
  判決は、7月8日から継続してむつき交換時に激しく泣く症状が見られ、またW医師が14日、右下肢を股関節部で伸展させようとすると原告が激しく泣くことから化膿性関節炎、大腿骨骨髄炎との鑑別の必要性があると判断していたのであるから、遅くとも7月15日の段階で整形外科の診断を求めていれば、原告の股関節に発生している異常に気が付き、相応しい観察と施術が可能であり、かつ原告の大腿骨骨頭及び膝関節の障害を避けることができたと認定しました。

以上

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