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2005.12.21 コラム一覧に戻る
高齢者の入浴(溺死)事故と傷害保険における外来性要件@
1,  入浴中の死亡(溺死)事故は全国で年間約1万4000人程度あると言われていますが、その大半が高齢者です。
  しかし、他方、1人で入浴している時におきるので発生状況が不明であり、また病理解剖を行っても死因が必ずしも明らかにならないことから、保険金請求の際、死因をめぐってトラブルとなるケースが少なくありません。傷害保険の要件として「外来性」が求められ、身体の内部に原因するもの(疾病等)は保険事故には当たらないのですが、保険会社からは「成人が浴室内での溺死することは通常あり得ない、実の死因は心疾患である、溺死だとしても心疾患によって引き起こされたものだ」として保険金請求を拒否されることがあるからです。
  この点に関する裁判例としては、「高齢者が入浴中に心臓疾患の発作により湯を吸引して溺死した事故は外来の事故に当たらない」とした否定判例(福岡地裁平成8年4月25日判決、判例時報1577号126頁)と「溺死は環境的な要因に基づいているのであり、何らかの原因で意識障害が生じて、溺死に至った場合もあるが、意識障害で伏せった場所が浴槽内でなければ死亡しなかった場合には外来的な原因によるものであることを左右するに足りる事情が認められない限り、保険金請求を認容すべき」とした肯定判例(名古屋高裁平成14年9月5日判決、下級裁主要判決情報)等があったのですが、大阪高裁平成17年12月1日判決は「保険金請求者は直接死因が身体の外部にあることを立証すればその間接的な原因が身体内部に原因することまで明らかにする必要はなく、身体の内部に原因するものであることが明らかであるとはいえないことを立証すれば足りる」と判示し、入浴中の溺死事案につき、保険金請求を認容する判断を示しました(2審にて確定)のでご紹介します。

2,  本件では直接死因がそもそも溺死なのか、そうでないのかがまず重要な争点となりました。
死体検案書の直接死因は「溺死(推定)」とされており、解剖所見でも心臓冠動脈硬化等はなかったのですが、保険会社側は「溺死肺といえない、細小白色泡液の不存在、錘体内出血が観察されていないなど溺死の典型的な所見に乏しい」、「死亡の約1ヶ月半前に近医にて心不全、胸水、気管支喘息との診断を受けていた、1年数ヶ月前に心電図で異常の可能性を指摘されていた」として、死因は心疾患によるものであって、溺死ではないと反論しました。
  保険会社側は一審、控訴審と併せて2名の医師の意見書、請求者側は監察医の回答書を提出して争ったのですが、裁判所は論点毎にそれぞれの主張を1つ1つ検討した上で、頭蓋蝶形骨洞貯留液、胸腔内貯留液の存在等を根拠に溺死であると認定しました。結論を分けたのは、意見書・回答書のそれぞれの説得力と主張に沿った医学文献の提出であったように思われます。

3,  保険会社側はさらに、直接死因が溺死だとしても成人が自宅の浅い風呂場で溺れることは通常あり得ないこと、1ヶ月半前に心不全等で入院を勧められていること等、入浴中に心不全などの意識喪失に陥り、風呂水を吸引して溺死したのであり、事故の原因はもっぱら身体の内部にあるのであり、外来性の要件を欠くと主張しました。
  大阪高裁判決は「保険金請求者は直接死因が被保険者の外部にあること及びその間接的な原因も身体の内部に原因するものではないことを立証するのが原則ではあるが、本件のように1人暮らしの老人が死亡後、時日を経過して発見された場合を考えると、その死亡に至る経過の具体的な事情は不明であることが多いから、上記のような解釈は保険金請求者に過大な負担を課すことになる。間接的な原因については様々な事実経過が想定され得るのであるから、これが身体内部に原因するもの(疾病)ではないことを立証しなければならないとすると、想定し得るすべての事実経過を検討し、これが身体の内部に原因するものではないことを立証しなければならないことになり、不当な結果となることは明らかである。そこで、保険金請求者は直接死因が身体の外部にあることを立証すれば、その間接的な原因については身体の内部にあることが明らかではないことを立証すれば足りる」と判示した上で、本件については「心電図検査での異常の可能性や心不全等の診断の結果もあるが、解剖の結果、心臓・肺等に特段、異常を示す所見はなかったこと等から、被保険者が急性の心不全等を起こしたことは明らかではない」としました。
  そして、浅い浴槽での溺死であって、意識障害を生じていたと考えられる点については、「湯船に浸かることは高温異常環境に身を置くことであり、熱中症を意識障害の原因として考慮すべきとされていること、高齢者については特段の疾患がない健常人であっても、加齢により、心肺機能ないし循環機能が低下しているものと考えられることから、入浴による温度や圧力変化により急激な血圧上昇又は下降等が原因となって一時的にも意識障害を生じ、その結果、溺死することは十分に考えられるから、内部的疾患がなければ浴槽において溺死することはないとまではいえない」と判断したのです。

4,  保険金請求においては、死亡診断書、死体検案書によって外来性を証明するのが通常ですが、高齢者の入浴事故の場合、発生状況等不明な点が多く、間接的な原因まで争われた場合には保険金請求者の負担は極めて大きいものとなります。
  この点、大阪高裁判決は「直接死因を証明すればよく、間接的な原因については身体内部に原因があることが明らかではないことを立証すれば足りる」としたのですが、その判示した意味は大きいと考えます。

(内橋一郎)

以上

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