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2007.07.30 コラム一覧に戻る
先物取引の新判例:ちょっといい判示
『先物取引裁判例集48巻』から、興味深い判示をした判例をいくつか紹介します。

1,神戸地裁平成19年1月19日判決(48巻23頁以下)

 取引開始時、66才の年金生活者(男性、平成10年に勤務先を定年退職)で、株式取引等の経験はなかった。外務員から勧誘を受け、平成16年7月〜17年7月迄東穀コーンの取引を行い、520数万円の取引損を受けたというケース。
 この裁判で、神戸地裁は、商品取引員に対し、「顧客利益をできるだけ保護しながら、社会通念上相当の期間内に、手仕舞いに向けた事務処理を行う義務」を負担するとして、586万円あまりの預託金(返還を受けたものを除く全部)の返還と慰謝料200万円の支払いを命じました。

 (1) @商品取引員らは、顧客の指示に忠実に従う義務を負うのであって、顧客から手仕舞いを指示されれば新たな勧誘をしないで取引を終了させる義務を負い、かつ誠実公正に顧客との取引を終了すべき義務を負うこと、顧客の指示がないのに顧客の計算で取引をしない義務を負う。A本件については、商品取引員らは顧客が「これ以上資金は出せない」、「手仕舞いをして欲しい」と申し出た平成16年8月20日以降、原告の利益をできるだけ保護しながら、社会通念上相当の期間内に、手仕舞いに向けた事務処理を行う義務(かつ手仕舞いの後は原告の指示なしに原告の計算で取引を行わない)を負担していた。B平成16年9月15日の時点で、No7建玉を全部仕切っても、なお原告の取引全体として帳尻益が出るならば、商品取引員らは遅くとも、その時点で、建玉全部を仕切って手仕舞いすべきであった。

 (2) 外務員が手仕舞いを拒否し、無断売買を続けるという不法行為を長期間継続したために、顧客は大いに困惑し、財産を失うのではないかとの不安に見舞われ、家庭不和にまで追い込まれ、長い間、苦悩に苛まれる日常生活を強いられた。老後の蓄えを失うのではないかという瀬戸際に立たされる不安は年金生活者にとって極めて申告な苦痛であって、慰謝料200万円が相当である。 


2,神戸地裁平成19年3月20日判決(48巻68頁以下)

 委託者は取引開始当時73才の年金生活者。株式の経験はあったが、先物取引の経験はない。
 平成12年12月〜同17年7月迄東穀コーン、福岡コーン、N大豆、一般大豆等で9241万円の実損害を受けた。取引途中、先物取引の所得があったのに所得税の申告がなされていないとして、修正申告を余儀なくされている(この関係の公租公課の負担は1024万円)。
 神戸地裁は、実損害全部(過失相殺否定)、公租公課の負担、弁護士費用分の合計として、1億1293万円の支払いを命じた。

 (1) 本件での公租公課は、本件不法行為、特に原告が無知で何でも外務員の言いなりになることに乗じ、返金要求を無視して帳尻益を証拠金に振り替え、ひたすら取引を拡大させた外務員の違法行為がなかったならば、そもそも原告に課せられることはなかったのであるから、本件不法行為と相当因果関係に立つ。

 (2) 商品取引員の過失相殺の主張に対し、本件不法行為は、原告の無知・無理解に乗じ、およそ先物取引に参加させる適格性を欠く高齢で独り暮らしの年金生活者を先物取引に招き入れ、かつ原告の利益を無視して、会社ぐるみで手数料収入の拡大を図ろうとする悪質なものである。
 外務員は、何度も帳尻益を返金して欲しいと原告が要求したのに、これを無視し、帳尻益を次々と証拠金に振り替え、ひたすら取引の拡大を図ったのである。本件取引が手仕舞となったのも、弁護士が登場して手仕舞を指示したからである。このことは、原告が、外務員の行動を抑制する術を何も持たない、無力な老人であることを端的に示している。
 このような老人にとって、外務員らの違法な勧誘を強くはねつけ、思惑と違って損が出たなら、早々に本件取引の手仕舞いをして損害の発生・拡大を食い止めることなどは殆ど不可能であった。
 したがって、本件では722条2項を適用し、損害の一部を原告の負担とすることが、同条の趣旨である損害の公平の分担に資するとは到底考えられず、過失相殺を認めることは相当でない。


3,広島地裁平成19年3月29日判決(48巻117頁以下)
  
 取引開始時、68才の男性で、当時、建築関係の会社に名目的な取締役として在籍していた。収入は会社からの年180万円の報酬と年金320万円。資産としては預貯金5500万円、有価証券3300万円、自宅がある。
 平成15年6月〜16年2月迄東工ガソリン、原油、金、白金の取引を行い、3988万円の損害を被った。
 広島地裁は、委託者は外務員らの手数料稼ぎの犠牲になったのであって、手数料部分(3886万円)については過失相殺の対象とすることを否定した。 

 @ 本件においては、(ア)外務員が先物取引は原告の投資方針に整合的ではないものであることを知りながら新規委託者保護義務や適合性に大幅に反する大量の建玉を行わせたこと、(イ)平成15年8月28日以降、常時両建て、同年10月17日以降は建玉の大半が両建てとなり、因果玉が放置されるなど、極めて不合理な取引が特に取引後半の長期間にわたって行われていること、(ウ)顧客の具体的な意思に基づかない実質的な一任売買が行われ、一部の取引は無断売買であることなどから外務員は手数料稼ぎの目的をもって本件取引を勧誘した。

 A 顧客はローリスクの取引を望むことを外務員に表明していたにもかかわらず、本件の取引規模は平均的な委託者の12倍となっており、特に取引規模が拡大した後半の建玉の大部分が両建てであることからすれば、本件取引はその全期間にわたって手数料稼ぎ目的の支配下にあったというべきで、顧客が支払った手数料はそのほぼ全てが外務員の手数料稼ぎ目的の犠牲になった。

 B したがって、本件においては手数料部分(3886万円)について過失相殺の対象とすることを否定すべきである。


4,大阪高裁平成19年4月27日判決(48巻15頁以下)

 (1) 顧客が外国為替証拠金取引の業者との間で、平成17年1月から同年10月迄為替取引を行い、約507万円の預託金返還請求権を有していたところ、同年10月26日に、業者従業員が自宅にやってきて、業者に関東財務局の監査を受けていることを告げ、おそらく6ヶ月ぐらいの営業停止になり、そうなると会社がつぶれ、本件預託金はほとんど戻ってこない、戻ってこないお金よりも、財務局の結果が出る前の今なら100万円は確実に返すことができるなどと述べ、顧客に対し、その場で本件預託金のうち100万円の支払いを受け、残金の返還請求権を放棄する旨を記載した和解合意書に署名捺印しなければ本件預託金はほとんど返ってこない旨申し向けた。
 顧客は、為替業者が行政処分を受けて倒産し、本件預託金はほとんど返還されないと信じ、返還額を少しでも上積みするよう求めた結果、総額150万円を2回に分割し、同月27日に100万円、翌月末日に50万円を支払う内容の本件和解契約が成立し、和解合意書を作成した。
 和解金150万円は支払われ、業者も営業停止になったが、倒産はせず、現在も営業している。
 顧客は、代理人弁護士を通じて、和解契約を取消し、約357万円の返還を求めたが、業者が争ったため、提訴するにいたった。
 大阪高裁は、倒産の可能性や預託金の返還可能性等についての断定的判断提供による取消を認めた。

 (2) 一審(神戸地裁伊丹支部平成18年10月4日判決)は、ある程度の金融知識と取引経験を有する顧客が従業員の言いなりになったとは考えがたいとして、顧客の供述を排斥し、従業員の供述に従い、単に本件預託金が返還されなくなる可能性があるだけと述べただけだとして、断定的判断提供を認定しなかった。
 これに対し、大阪高裁は、本件和解契約が7割もの請求権を放棄させていること、当時、為替取引をしていた他社に対する預託金返還請求権に係る紛争の解決を控訴代理人弁護士に委任していたのに、控訴代理人に相談することなく、本件和解契約を締結していることからすれば、従業員が断定的判断を提供したからこそ、本件和解契約に応じたと認定し、行政処分や倒産の可能性、本件預託金の返還可能性について、断定的判断を提供したとして、一審判決を取り消した。

 (3) 消費者契約法4条1項2号の「将来における変動が不確実な事項」が、金融取引における各種の指数・数値・金利・通貨の価値等、消費者の財産上の利益に影響する将来を見通すことができない経済的事項に限定するかどうかについては議論がある(落合誠一「消費者契約法」79頁等)が、本件判決は倒産の可能性や預託金の返還可能性等についての断定的判断提供による取消を認めたものである。

(内橋一郎)

以上

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