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2007.08.06 コラム一覧に戻る
MRSA感染症に関する新判例A
3,平成19年6月1日神戸地裁判決
(1)事案の概要
 @平成5年7月10日、被告病院にて出生。同月19日、39度に発熱。哺乳力・活気低下。白血球数14400、核左方移動、CRP1・7。同日午後6時からビクシリン、ガンマグロブリン投与。A同月20日、38度。白血球数増加(18500)、核左方移動、血小板数低下(11・2万)、CRP上昇(7・9)、髄液細胞数増加。午前10時、クラフォラン追加。ゾビラックス投与。B同月21日、発熱継続。白血球数増加(15300)、核左方移動、血小板数低下(2・7万)、CRP上昇(13・4)。C同月22日、白血球数増加(13100)、核左方移動、血小板低下(3・8万)、ガンマグロブリン投与。血液検査、D同月23日、38度台。午前哺乳力良好であったが、午後には緩慢、腹部膨満、四肢チアノーゼ。白血球数増加(13100)、核左方移動、血小板低下(6・3万)、CRP上昇(18・7)。夕刻には白血球増加(15900)、血小板数低下(5・9万)。午後6時から、交換輸血。FOY投与。抗生剤をビクシリンの投与を止め、ホスミシンとクラフォランの併用に切り替え、午後8時からはアミカシンを追加。E同月24日、37度台。皮膚色不良、腹部膨満、排便少量。白血球数増加(14900)、血小板数低下(8・5万)、CRP上昇(9・1)。ガンマグロブリン続行。F同月25日、37度台。啼泣弱い。白血球数増加(20500)、血小板数低下(6・6万)、CRP上昇(9・1)、G発熱、多呼吸、頻脈、皮膚色不良、腹部膨満、尿量減少。白血球数増加(21100)、核左方移動、血小板数低下(4万)、CRP値上昇(16・6)。腹部膨満顕著。レントゲン検査にてフリーエアー(腸管穿孔)を認め、こども病院に転院。H7月27日、22日及び23日に提出された血液培養からMRSAが確認される。Iこども病院で治療を受けるが、化膿性関節炎の後遺症を残した。

(2)本件では、(ア)原告がMRSA感染したこと自体に、被告病院のMRSA感染予防対策に過失があるか、(イ)被告病院のMRSA感染治療に過失があるか、(ウ)(ア)、(イ)の過失と原告の化膿性関節炎との間に因果関係が争点になりました。  
ここでは(ア)と(イ)について述べます。
 
(ア) 被告病院での「MRSA予防策」について、「原告へのMRSAの感染経路にとして原告に対してこども病院への転院まで続けられた点滴のため留置針の挿入部位からMRSAが侵入した可能性も否定し得ないが、皮膚消毒が不完全であったためにMRSAが発症したことを推認させる具体的な事実を認めるには足りない」として、「過失があったとまでいうことができない」としました。

(イ) しかし、「MRSA感染後の治療」には過失があったとしました。
 @ 7月19日、感染症の臨床症状がみられた上、検査所見も感染症を疑わせるものであるから、被告病院小児科医師は同日の時点で原告が何らかの感染症に罹患していることを予見できた。
 A 同月20日には、既に感染症の存在を強く疑わせるものになっていたところ、被告病院小児科医師は原告に対し、20日からセフェム系のクラフォランを投与したが、21日になっても発熱継続、CRP上昇、血小板減少等の感染症の進行が認められた。
 B 新生児敗血症には、生後72時間以内に発症する早発型敗血症とそれ以後に発症する遅発性敗血症とに分けられる、遅発性敗血症の起因菌としてはメシチリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)、MRSAによるものが過半数を占めるが、我が国のNICUにおけるMRSAの保菌率が高く、MRSAが主要な起因菌になっていること、MRSAは広くβ−ラクタム剤と呼称される抗菌剤(ペニシリン系、セフェム系、モノバクタム系、カンバペネム系)にも耐性を示す多剤耐性黄色ブドウ球菌であり、平成3年にバンコマイシンが使用承認された後はペニシリン系のビクシリン、セフェム系のクラフォランはあまり使用されなくなっていたことから、ビクシリンを投与してから48時間を経過した7月21日の時点でペニシリン系の抗菌剤は無効であり、セフェム系の抗菌剤も効果がなく、原告の感染症の起因菌としてはMRSAの可能性があることを予見できた。
 C したがって7月21日の時点で、原告の感染症の起因菌として、MRSAの可能性があることを予見できたのだから、この時点に至ってはMRSA感染に関しての治療を行うべきであって、MRSAに対する効果に疑問のあるビクシリン及びクラフォランを投与するだけでは足りず、MRSAに対して有効な、第一選択薬であるバンコマイシンを投与すべきであった。
 
(ウ) MRSA感染後の治療については、いつ、どのような事情から、MRSAを疑い、いつ、どのような治療を開始すべきかが問われます。
 神戸地裁判決は、本件が生後72時間後に発症した遅発性敗血症のケースであること、遅発性敗血症にあってはMRSA感染が多いこと、19日の時点で何らかの感染症に罹患していることが予見でき、19日からのビクシリン及び20日からのクラフォラン投与にもかかわらず、感染症が進行し、ペニシリン系のビクシリン、セフェム系のクラフォラン効果がない以上、MRSAを疑うべきであり、その時点において、血液検査等でMRSAが検出されていなくても、第一選択薬であるバンコマイシンを投与すべきであったとしたのでした。

(エ)本件は一審にて確定しました。
 入院中の新生児がMRSA感染し、化膿性関節炎の後遺症を残したケースとして、山口地裁平成10年6月30日判決(判例タイムス1015号212頁)があります。同判決は、新生児細菌感染症の初発症状とみられる臨床症状があること、咽頭からMRSAが検出されている既往があったことから、感染症の原因菌の1つとしてMRSAを予見できたとして医師の過失を認めました(但し、控訴審では、敗訴したと聞いています)。
 本判決は、MRSA検出される前でも、MRSAを疑うべきで場合があるとした点及びその時点で第一選択薬であるバンコマイシンを直ちに投与すべきであったとした点並びに一審にて確定した点において意義があると考えます。

(内橋一郎)

以上

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