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2008.02.22 コラム一覧に戻る
先物取引における情報提供義務・助言義務
〜05年12月東工金臨増決定後暴落事件との関連で
1,05年12月東工金臨増決定後暴落事件と情報提供義務・助言義務について
東京工業品取引所(「東工」と略します)の金相場は05年秋頃から高騰を続け、10月限は12月12日(終値)には2155円をつけ、2日連続でストップ高となっていました。
 東工は、ボラティリティが急激に上昇したことと海外市場との価格乖離が顕著になったことから、12月12日、臨時貴金属市場管理委員会を開催し、14日から金について既存玉で2万5000円、新規建玉で5万円の臨時増証拠金を預託させることを決定しました。なお既に12月9日の臨時貴金属管理委員会で、今後の市場動向に大きな変化があった時には臨時管理委員会を開催し、機動的な市場管理を行うことが確認されていました。
 臨時増証拠金とは、急激な変化により相場に著しい変動が生じ、相場が過熱化する状況下において、市場の過熱化を抑制することを目的として委託者から差し入れさせる取引証拠金をいいます。波乱相場から投機家を離脱させる副次的効果も狙っているとされています(『受託業務の基礎知識』p250)。臨時増証拠金を略して臨増と呼ぶことがあります。

 ≪臨時増証拠金の目的≫
  ・担保力強化
  ・相場の過熱の沈静化
  ・波乱相場から投機家の離脱

 12日の臨時貴金属市場管理委員会で臨時増証拠金が課せられるということが決定されてから、連日ストップ安となり、また銀、パラジウム、アルミ等貴金属全般に影響し、貴金属について買玉を建てていた一般投資家が大幅な損失を被りました。
 多くの投資家が臨時増証拠金賦課の事実を知ったのは、金相場が下落し、ストップ安となって以降だったようです。
 仮に臨時増証拠金がかかるとの決定が出されたとの情報提供、あるいは近く臨時増証拠金が課せられそうだとの情報提供が適時なされていれば、また臨時増証拠金がかかると価格下落(暴落)が予想されるので、直ちに仕切った方がいいとの助言があれば、ここまでの大きな損害を被ることはなかったとして、情報提供義務・助言義務が訴訟での大きな論点となっています。
 今年に入って、この問題に関して、神戸地裁平成20年1月18日判決、札幌高裁同月25日判決と2つの裁判例が続いて出ましたので、ご紹介します。


2,神戸地裁平成20年1月18日判決
 臨時増証拠金の目的は、相場の過熱を沈静化し、波乱相場から投資家を離脱させることにあり、価格上昇局面では、例外的な事情がない限り、臨時増証拠金の徴収により価格は下落することが多い。
 商品取引員には新規委託者保護義務の内容として、新規委託者が経験不足ゆえに不測の損害を被ることのないように、適時に取引に関する重要な情報を伝達し、委託者の立場にたって適切な助言を与えるべき信義則上の義務がある。
 外務員らは、専門的に先物取引を取り扱う者として、12月12日ないし13日の時点で14日から、臨時増証拠金が賦課される情報を知り得たと強く推認されるところ、原告に対してこのような情報を伝達した事実は認められず、適切な助言を行ったとも認め難いとして、情報提供義務違反、助言義務違反を違法要素とし、不法行為による損害賠償責任を認めました。


3,札幌高裁平成20年1月25日判決
 平成17年12月の時点において、ロコロンドン市場と東京市場の金の価格差は過去に例を見ないほどに大きくなり、東京市場の独歩高が連続する状況にあったのだから、早晩東京価格が下落する形で両者の乖離が解消されることが予測された。
 そして、その状況を踏まえて、東京工業品取引所では、同月9日に臨時の委員会が開催され、市場動向を注意深く監視することを確認するなど、金市場の過熱への対策が講じられ始め、同月12日の本件取引の対象となった平成18年10月限の金先物の総取組高は過去に例を見ないほどの大量のものであり、その買玉の大半を一般の委託者が有していたことからすると、いったん金価格が下落するとともに上記臨時増証拠金が課されると、資力のない買いポジションの一般委託者は差金決済をして取引から離脱せざるを得ず、これがさらなる買玉の仕切注文を誘発し、価格暴落をもたらすことが予想される状況にあり、このような状況に至れば、仕切注文を出しても、ストップ安が連続して仕切りができず、損失が拡大する可能性があった。
 このような事実は消費者契約法4条2項の「不利益事実」に該当しますが、外務員らは控訴人に対しそのような相場暴落の可能性を示す事実に何ら言及することなく、相場上昇の相場観のみを控訴人に伝えており、これによって控訴人は相場暴落の可能性を認識することなく、相場上昇を信じて本件取引を行ったのですから、消費者契約法4条2項に基づき、本件取引を取り消すことができるとしました。


4,神戸地裁判決は、臨時増証拠金の目的が相場の過熱を沈静化し、波乱相場から投資家を離脱させることにあり、価格上昇局面では、臨時増証拠金の徴収により価格は下落することが多いことを根拠に、臨時増証拠金が課せられたこと及びそのことが相場に与える影響についての情報提供義務と助言義務を認め、その違反を違法要素として、不法行為による損害賠償責任を認めるものです。
 これに対し、札幌高裁判決は、臨時増証拠金が課せられる前においても、国際市場との価格差、12月9日の臨時委員会の開催、かつてない程の大量の取組高、委託玉の一般投資家への集中等から、臨時増証拠金が課されると、資力のない買いポジションの一般委託者は差金決済をして取引から離脱せざるを得ず、これがさらなる買玉の仕切注文を誘発し、価格暴落をもたらすことが予想される状況にあること等について情報提供すべきであり、それをしないで、価格上昇の相場観のみを伝えるのは、消費者契約法にいう、「不利益事実の不告知」に該当するとして取引自体の取消を認めたものです。
 いずれの判決も情報提供義務、助言義務を考える上で、興味深い判決であると考えます。

(内橋一郎)

以上

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