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2008.04.23 コラム一覧に戻る
先物被害訴訟のストラテジーA 新規委託者保護義務の射程範囲(上)
《平成20年3月28日 第59回先物取引被害全国研究会(山形大会)での講演から》

新規委託者保護義務の沿革
 新規委託者保護義務とは,先物取引を始めてまもない新規の委託者について保護育成を図る義務が商品取引員にはあるというもので,昭和53年以来20枚ルールというのがありました。取引を開始して3カ月の新規委託者については建玉を原則20枚内にとどめ,それを超える場合は社内審査することが先物業者の社内規定(受託業務管理規則)のなかで定められました。そして,それに違反する場合を私法上違法であると判断する裁判例がたくさん出てきました。
 平成10年からは,20枚という一律ではなく,各社規定によって定めるということになりました。20枚ルールがルールとしては撤廃されたわけです。例えば証拠金300万円を上限,あるいは500万円を上限とするものとするとか,あるいは,ポイント制,例えば課長職であるとか,収入であるとかに応じて,ポイントを付して,それに応じて枚数を定める。例えば,管理職でそこそこの収入があって、仕組みや危険性を理解しているということになれば,例えば100枚まで可能だというような各社規定を定めるところも出てきました。
 さらに平成17年5月から,「商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン」が実施されましたが,ここで,投資可能額の3分の1までにとどめるようにというようなガイドラインが示されたこともあって,それを受けて,各社規定も投資可能額の3分の1というふうな規定にしているところが多いのではないかと思います。
 問題は,そうすると,悪質な業者はどうするかというと,その「投資可能金額」を過大に書かせるわけです。例えば,8千万円であるとか,3千万円であるとか,およそ考えられないような数字を書かせたりするわけです。あるいは,一応3カ月のあいだはそっと大人しくしておいて,3カ月過ぎたあたりに急に過激な建玉をさせたりするわけです。
 そういったことは,明らかに脱法行為なわけですが,その違法性を考えるときに,こういった20枚ルールの沿革に遡ったり,あるいは,その趣旨に遡ったり,あるいは判例法のもとで形成されてきた法的な性格,信義則であるとか,適合性原則とか,そういうところに遡って考えてみようというのが,この『新規委託者保護規定の射程範囲』の前半の課題です。

新規委託者保護義務の趣旨・法的性格
 まず,新規委託者保護義務の趣旨ですが,大阪高裁平成17年1月19日判決によれば,「新規委託者が過大な取引をしたとすると,結局,自分で処理できないような過大な損害を被る危険性がある。そういった大きな危険を被ったときに,損を取り戻そうとして,ますます深みにはまっていくのだと。そういう危険性があるからこそ,この新規委託者保護規定が設けられたのだ」としています。東京高裁でもそういう判例があるようです。
 その法的性格論については,判例法のなかで,いろいろな法的根拠が盛り込まれてきています。初期の判例のなかでは,「単にその商品取引員の独自の内部規定ではなく,商品取引員に共通のルールである。だから,委託者に対して,一般的な注意義務の内容を構成するのだ」という,一般的な注意義務を根拠とするものがあります。それから信義則上の義務であるというものがあります。また適合性原則に由来するのだというものがあります。「商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン」などは,そういう考え方に立っているようです。元々,20枚ルール自体,新規委託者保護自体が,適合性原則が明文化される以前から,適合性原則的な考えに基づいて規定されたものだと思います。それが、適合性原則が明文化されることによって,その関係がより明確になったということが言えるのではないかと思います。さらに,誠実公正義務,あるいは善管注意義務をベースに,新規委託者保護義務を考える考え方もあります。
 つまり,新規委託者保護義務というのは,受託業務管理規則,あるいは,信義則,適合性原則,誠実公正義務,善管注意義務といった,いろいろな要素が流れ込んでできた判例法理であるということができると思います。

20枚ルールの行方 
 平成10年以降,各社規定が設けられた時代についての判例を少し紹介します。この段階では,規則上は,20枚ルールは撤廃されたわけです。しかし,20枚ルールは多数の判例によって形成され,確立されてきた判例,法理なのだから,その核心部分であった量的な規制,審査基準は,やはり現代においても,ファクターの一つとしては考慮されるべきであると思うわけです。そして,やはりそれは,沿革や趣旨に照らして考えたときに,そういう結論が出るのではないかと思われます。
 大阪高裁平成17年1月19日判決のケースは,500万円以下の取引を新規委託者保護義務の内容とした自主規定だったと思いますが,大阪高裁は,商品取引員の自主規制が20枚ルールの流れを汲むものであるということを指摘した上で,新規委託者保護の趣旨からすれば,やはり過大に過ぎるのではないかということを言っています。
 さらに,札幌地裁平成18年3月16日判決では,商品取引員は,自分のところの保護規定を遵守しているのだという主張に対して,本件のような過大な取引が許容されるとすれば,その規定自体が新規委託者保護を定めた規定としては,「適格性がない」のだという面白い言い方をしています。
 20枚ルールは撤廃されましたが,やはり判例法のなかで生きているし,さらに,その元々の規定の趣旨や問題点に照らしてみたときには,20枚というのは一つの目安になるのではないかと思います。

投資可能金額のウソ
 さらに量的な規制の基準となる「投資可能金額」に大きな金額を書かせるような事例があります。
 大阪高裁平成18年9月20日判決のケースでは,8千万円という金額が投資可能金額に書いてありました。原告の年齢も70歳以上の方だと思います。大阪高裁は,「その年齢の収入からすれば,当然,1億円は老後資金を含むということは容易に想像できる。そんな老後資金を含むものに,8千万円を投入するようなことは通常あり得ない。だからこの8千万円という記載は,本当の意味での投資可能金額ではなく,すぐに現金化できる資産を記載したものにすぎないし,被告会社の従業員も,当然それを理解できたはずだ」ということを言っています。
 さらに,福岡地裁平成19年6月7日判決は,「突然面識のない相手方に電話をかけて勧誘を試みるのだから,取引が適格不適格と言わず勧誘することになるのだと。いったん勧誘して,興味を示した相手方に対して,不適格事由を究明して,相手方を配慮するということが消極的になりがちである。ですから,被告会社が採用しているようなやり方というのは,脱法行為の危険性があるわけだから,さらに,補充的な調査を具体的に行う義務があるのだ」ということを言っているわけです。
 これらの判決は,いずれも顧客調査義務(顧客熟知義務)というのでしょうか,'KNOW YOUR CUSTOMER' RULESに基づくものだと思います。やはり適合性原則の派生原則である'KNOW YOUR CUSTOMER' RULESから考えてみれば,商品取引員のほうに調査する義務があるのだと。だから,商品取引員側が投資可能金額として記載された金額をそのまま鵜呑みにしたのでは,許されるものではないのだということが導かれると思います。

新規委託者保護義務の時間的射程
 3カ月経過後の過大取引についても,やはり趣旨に照らしてみれば出てくることだと思います。元々,新規委託者保護規定の趣旨は,自分の責任と判断で取引をすることができるような状況を確保することなのだから,仮に3カ月経過したとしても,保護,育成が十分でなくて,自分の責任で判断できない,あるいは,判断できるような状況が確保できないとすれば,それはまだなお,保護,育成を図る必要があるというのは,当然出てくる結論かと思います。
 広島高裁平成18年10月20日判決は,最初3カ月の間に50枚の買建てで,そのあと,そのままずっと放置されていたのですが,3カ月過ぎたあたりから,異様な数の建玉をした例です。この点についても,「最初50万円を建玉したあと,習熟期間である3カ月の間,新たな建玉の経験を積むことがほとんどなかったのだから,その間に先物取引に習熟したとは認められない」のだと言っています。

(内橋一郎)

以上

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