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2008.04.23 コラム一覧に戻る
先物被害訴訟のストラテジーB 新規委託者保護義務の射程範囲(下)
《平成20年3月28日 第59回先物取引被害全国研究会(山形大会)での講演から》

取引手法の第一選択と禁忌
 これまで,投資可能金額の3分の1という量的な規制や取引開始後3ヶ月という時間的規制に関連する諸問題についても,沿革や趣旨あるいは法的性格に遡って考えてみれば,妥当な結論を導き出すことができるのではないかというお話しをしてきました。それが前半の課題です。
 後半は,沿革なり,趣旨なり,あるいは法的性格に遡って考えてみたときに,量的な規制や時間的規制だけでなく,取引手法に対する質的な規制も導き出せるのではないかということを考えていきたいと思います。
 この質的規制については,「取引手法の第一選択と禁忌」という副題を付けています。
 外務員から,最初に取引の説明を受けるときに,『相場が予期に反したときの対処方法』として図や表で各手法が書いてあるパンフレットがあります。それには,仕切り,追証,途転,難平,両建,ほぼ並列に書いてあるわけです。
 だけれども,各種指南書によれば,損が出たら仕切りなさいと,ほとんどの本にそう書いてあるわけです。「見切り千両」とか,「休むも相場」とかいったことが書いてあるわけです。
 元々の新規委託者保護の規定の趣旨というのは,「大きな損が出ると冷静に対応できなくて,損を取り戻そうとして,さらに資金を追加して、ますます深みにはまる危険性がある」ということが中心にあるわけですから,そこから,「冷静に仕切りができる程度の範囲にとどめるべきだ」という量的な規定が導き出されてくるわけです。さらに言えば,その前提として,もともと「仕切って冷静になる」というのが,新規委託者保護の趣旨に含まれていると思うのです。
 よく,医療の場合において,第一選択薬であるとか,禁忌であるというようなことを言いますが,それに倣うのであれば,新規委託者にとって,予測に反した場合の対応,第一選択は仕切りであって,追証,難平,途転,両建は,逆に禁忌ではないかと思うわけです。そこから,やはり仕切助言義務であるとか,手仕舞勧告義務といったものが導き出してこられるのではないかと考えています。

投資方針助言義務
 さらに量的規制,時間的規制,質的規制を総合するものとして,投資意向確認義務,それから,投資方針助言義務というものを導くことができないかと思っています。
 京都地裁平成15年12月18日判決は,証券の過当取引に関する判例ですが,先物の新規委託者にもぴったり当てはまるのではないかと思っています。読んでみます。「証券会社は,顧客に不適合な証券取引をしてはならず,証券会社が顧客に投資勧誘する場合には,顧客の投資運用目的や,投資方針を確認し,それに見合った原則的な投資運用策を示して,それに顧客の基本的同意を取り付けるなどして,投資金を運用して,顧客の利益を保護する信義則上の義務を持っている。これを満たさないときは,自己決定権の侵害である」ということを,この京都地裁判決は言っているわけです。
 考えてみれば,そもそも投資意向なり,投資目的があって,だからこそ資産配分をどうするのかという議論になってくるわけで,アセットアロケーションとか,ポートフォリオというのが出てくるわけです。そういったなかで,先物取引はあくまで投機なわけですから,当然そのなかで,行き着くべき場所というのがあるはずなのです。だから,どれぐらいの利益を目標にするから,どれぐらいの資金を入れて,そのためには,どれだけ損が出たら撤退するのかということを,やはり決めておく必要があります。また,日々の取引のなかでも,最近2パーセントロスカットルールであるとか,5パーセントロスカットルールであるといったことが言われますけれども,やはりそういうことを,取引の始めのところで確認しておく義務があるのではないかと思います。「商品先物取引の委託者の保護に関するガイドライン」には,投資可能金額について説明せよといったことを言っています。しかし,ガイドラインによれば,投資可能金額というのは何かというと,「損失を被っても生活に支障のない範囲で差し入れ可能な金額」ということなのです。けれども,元々投機であるものというのと,生活に支障がないというのには,ものすごく距離があるはずなのです。その間に,こういった投資方針助言義務というのを埋め込む必要があると思います。

情報提供義務、助言義務
 何とかこういう判例が取れないかと思って,毎回,準備書面には書いております。
 そういう質的な規制もあるのだということを言っておりましたら,最近の神戸地裁平成20年1月18日判決では,ちょっと違いますが,質的な規制の一つだろうということで,こういう判例が出ました。
 「商品取引員は,先物取引を開始して間もない顧客に対し,過大な数量の取引を勧誘,受諾せず,外務員や,自身で定めた受託業務管理規則を誠実に遵守して執り行うとともに新規委託者が経験不足ゆえに,不測の損害を被ることがないように,適宜に取引に関する重要な情報を伝達し,委託者の立場に立った適切な助言を与えるべき信義則上の義務を持っている」のだという判例です。
 投資方針助言義務では,おそらく取引開始時における義務を想定していると思います。これは取引開始後の情報提供なり,助言義務ですが,いろいろなことを言っていたら,そのうち裁判所も反応してくれるかもわかりません。
 だから,新規委託者保護義務というのは,何も量的な規制だけではなく,言ってみればドラえもんのポケットみたいな感じで,いろいろなものをぱっぱっと取り出せるのではないかと思っています。

(内橋一郎)

以上

弁護士内橋一郎
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