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2008.05.07 コラム一覧に戻る
先物被害訴訟のストラテジーD 情報提供義務について考える
−05年12月金暴落事件を素材として(上)
《平成20年3月28日 第59回先物取引被害全国研究会(山形大会)での講演から》

05年12月金暴落事件とは
 4番目のテーマは,「情報提供義務について考える−05年12月の東京金の暴落事件を素材」としてということです。
 05年12月東工臨増決定後金暴落事件がどのような事件かというと,05年すなわち平成17年秋〜冬にかけて,東京工業品取引所の金がどんどんと上がっていったわけです。12月12日には,高値で2,155円がついた。二日続けてストップ高となったわけです。東京工業品取引所は,ボラティリティが急激に上昇したことや海外市場の価格乖離が顕著になったことから,12日に臨時貴金属市場管理委員会を開催して,14日から臨時増証拠金をかけることを決定しました。9日の段階でも委員会が開催されていて,今後の市場動向に大きな変化があったような場合には,臨時の委員会を開催して,機能的な市場管理をおこなうということが確認されたというものです。
 ご承知のとおり,臨時増証拠金というのは,急激な変化によって相場に著しい変動が生じ,相場の過熱が生じるような状況において,一つは顧客の担保力強化のため,一つは相場の過熱の沈静化のため,一つは波乱相場から投機家を離脱させるために課される臨時証拠金であるとなっています。
 12日にそういう決定があって以降,連日ストップ安になりました。金だけではなく,銀,パラジウム,アルミニウム等の貴金属に波及して,金属だけで買いを建てていた一般投資家が大幅な損失を被ったわけです。
 私の担当した原告の場合は,臨時増証拠金がかかるということを知ったのが,金相場が下落してストップ安となって以降の、14日でした。自分でインターネットを開いて見たところ,暴落しているのに気づいて,これは何だということで外務員に対して連絡したのだということでした。
 多くの投資家たちもそうだったのではないかと思います。仮に,臨時増証拠金がかかるという決定がなされた,あるいは近く出されるというような適時の情報提供とか,あるいは,臨時増証拠金がかかると予想され,かかるとなると価格が下がるので,すぐに売ってしまったほうがいいという助言があったとすれば,ここまで大きな損害を被ることはなかった。
 そこで臨時増証拠金に関する情報提供義務や助言義務が訴訟の論点となっているようです。

情報提供義務、説明義務、助言義務
 情報提供義務については,たくさん文献がありますし,『先物取引被害研究』(30号)に,証券研での,潮見佳男教授の講演レジュメが掲載されています。非常にレベルの高いお話をされています。また教科書で言えば,内田貴教授のもの(民法U債権各論)などに,1ページか2ページ簡潔に書いてあります。宅建業者の情報提供義務,フランチャイズ契約のおけるザーにジーに対する情報提供義務,投資取引に関する情報提供義務といったものの記載があります。
 情報提供義務というのは,ラフな言い方をすれば,情報格差がある場合,そのままでは自己決定ができないような場合に課されるものです。説明義務というのも,一定の情報提供をする義務という意味で,情報提供義務とほぼ同じでしょうが,ただそこには理解とか,あるいは,理解度を確認するというような観念が入ってくることが多いでしょう。そういう意味で,適合性原則などから導かれる部分があるのかもしれません。
 助言義務というのは,情報提供ではなく,判断の提供です。一定のアドバイスです。一方が専門的な地位にあり,他方でそれを信頼しているような関係のときに認められるのが助言義務です。情報提供義務が自己決定の前提だとすれば,助言義務というのは,自己決定を補完するものだと言えると思います。

証券判例(ワラント,信用取引,オプション)
 いくつかの判例が参考判例としてあります。
証券取引のほうでは,例えば,ワラントの判例があります。ワラントというのは,新株引受権です。要するに,特定の銘柄の株式を一定期間内に,一定の価格で引き受けることができるオプションです。オプションの通有性として,残存期間が短くなってくれば,価格は下がっていきます。ワラントについても,この判決のなかでは,投資期限などの残存期間が1年を切ると,価格が下がる傾向にあることを伝えて,売却を促すなどの助言をすべきだということを京都地裁(平成11年5月28日判決)が言っています。
 株式の信用取引の売建てについては,和歌山地裁新宮支部の判決(平成15年6月30日判決)があります。和歌山地裁判決は「株式の信用取引の売り建について,継続的な取引態様からして,担当社員には,勧誘時から決済が済むまで,取引上重要な状況(空売りの有利,不利に関する状況など)の変化があれば,その変化を告げるとともに,その取組及びこれに関連する状況について,適切な措置方法を,適切な時期に助言,指導すべき義務があった」と言っています。これは,かなり先物取引に近いところがあるかと思います。
 オプションについては,有名な平成17年7月14日の最高裁判決(才口裁判官の補足意見)があります。「仮に経験を積んだ投資家であったとしても,オプションの売りのリスクを的確にコントロールすることは困難であるから,証券会社のほうは,売りにオプションが片寄っているような場合,結局コントロールをすることができなくなるおそれが認められているような場合は,これを改善,是正するための積極的な指導助言義務をおこなう信義則上の義務がある」のだと言っています。
 
先物判例
 先物取引の関係では,神戸地裁平成15年5月22日判決が「時々刻々変動する相場に即応して,ただちに取引の指示を出すことが困難な状況であったことは明らかだから,外務員はこのような原告の状況に配慮して受託業務を遂行すべきだ。だから相場反転の動きを示したときには,至急連絡すべきで,損害拡大しないように積極的に手を打つべきである」と言っています。
 こういった判例の流れがあります。

(内橋一郎)

以上

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