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2008.10.29 コラム一覧に戻る
『指導助言義務』について
1, 投資被害事件の救済法理として、判例上、『説明義務』という観念が1990年代以降、定着し、現在では金融商品販売法等の法律にも取り込まれています。そして近時はこの説明義務に加えて、『指導助言義務』が注目されるようになってきました。
  説明義務ないし情報提供義務は、相手方にとって重要な事項を説明・情報提供する義務をいいます。当事者間に情報格差があり、そのままでは適切な自己決定ができない状況がある場合に情報を有する側に情報提供する義務を課すものです。これに対し、助言義務ないし指導助言義務は、情報提供を超えて、一定の判断、アドバイスを提供するものです。
  助言義務については、ワラントの購入者が価格下落後に、ワラントの特質を誤解したまま、権利行使期間が迫って紙くずになるリスクが極めて大きい、同一銘柄のワラントを自ら申し出て、難平買いしたケースにおいて、信義則上、ワラントの特質についての誤解を解き、合理的な判断ができるよう助言する義務があるとした大阪地裁平成7年12月5日判決以降、判例が少しずつ積み重ねられてきていますが、実務上、指導助言義務が特に注目されるようになったのは、オプション取引と適合性原則に関して判示した平成17年7月14日最高裁判決において才口千晴裁判官が差し戻し審での審理に関連付けて、指導助言義務についての補足意見(以下「才口補足意見」といいます)を述べたことの影響が大きいと思います。
  そこで以下では、平成17年最高裁判決・才口補足意見を紹介し、その影響下にあると考えられる最近の証券被害判例(大阪高裁平成20年8月27日判決)と先物被害判例(大阪高裁平成20年9月26日判決)を紹介したいと思います。

2, 最高裁平成17年7月14日判決・才口補足意見(オプション取引)
  オプション取引で巨額の損害を被った株式会社(資本金1億5000万円)が証券会社に対しオプション取引の勧誘は適合性原則違反であるとして損害賠償請求し、原判決(控訴審)は投資家側が勝訴したケースについて、最高裁は、日経平均オプションの商品特性、投資家の財産状況・投資意欲・投資経験等を総合して、適合性原則からの著しい逸脱があったとはいえないとして、破棄差し戻しをしましたが、才口補足意見は、差し戻し審での審理について、関連付けて、指導助言義務について以下のとおり判示しました。
  すなわち「オプション取引は抽象的な権利の売買であって、その仕組みを理解することは容易ではなく、特にオプションの売り取引は利益がオプション価格の範囲に限定される一方、損失が無限あるいは莫大になる危険性をはらむものであり、最もリスクの高い取引の1つであり、証券会社が顧客に対し、オプションの売り取引を勧誘して継続させるに当たっては格別の配慮を要する」とした上で、「被上告人のような経験を積んだ投資家であっても、オプションの売り取引のリスクを的確にコントロールすることは困難であるから、これを勧誘して取引し、手数料を取得することを業とする証券会社は、顧客の取引内容が極端にオプションの売りに偏り、リスクをコントロールすることができなくなるおそれが認められる場合には、これを改善、是正させるため積極的な指導、助言を行うなどの信義則上の義務を負うと解するのが相当である」としました。

3, 大阪高裁平成20年8月判決(証券取引)
  控訴人は、当時、50才代の男性で、衣料品の輸入業者で、本件取引以前に他社6社と取引があり、殊に1社とは本件取引の1ヶ月半前から信用取引の経験のあるベテラン投資家です。ITバブル期である平成11年8月〜12年3月、信用取引を中心に株式の頻繁売買を行い、8000万円近い損害を被ったケースについて、大阪高裁平成20年8月27日判決は次のような判示をしました。
  本件取引時期がITバブル期にあり、大きな相場変動要因があった時期であることや利益獲得という控訴人の志向を考慮しても、本件のような大量かつ頻繁な取引は、必要性があったとは認めがたいのであり、証券取引の知識経験が豊富な控訴人であっても、情報処理に基づく自主的かつ的確な投資判断ができる限界を超えており、担当者の指示や助言なしに投資判断することは極めて困難であって、控訴人はかなりの程度、担当者の指導助言のもとに本件取引を行っていたのであり、担当者の主導により大量かつ頻繁になされた結果、巨額の損失を招いた本件取引は、個別取引に形式的違法性がなくても、実質的には担当者の善管注意義務に反し、むしろ意図的に手数料獲得目的としてなした行為であり、全体として違法な過当取引に該当するとしました。その上で大阪高裁判決はさらに、保証金維持率に関する指導助言義務違反があると判示しました。
  すなわち信用取引にあっては、保証金を入金すればその約3倍を超える取引ができ、この取引総額において委託保証金が占める割合を「保証金維持率」といいます。被控訴人会社では保証金維持率が30%を割った場合には新規に信用取引をすることができず、また20%を割った時は追証をいれなければならないとされています。
  本件では平成11年12月に初めて30%を割って以降しばしば30%を割り込んでいますが、大阪高裁判決は「本件での損失拡大はITバブルの崩壊や単に控訴人が損切りを嫌ったことのみによって生じたとはいえないのであり、保証金維持率が30%を割って以降の担当者の対応は損害を拡大させるおそれのあるものであって、指導助言義務に反する」としています。
  大阪高裁判決は、証券取引の知識経験が豊富な控訴人であっても、保証金維持率30%を割り込むような過大取引はリスクコントロールが困難になるとの判断に基づくものと解されるのであり、かかる保証金維持率を指標にして肯定した指導助言義務違反は、最高裁平成17年7月14日判決補足意見における「指導助言義務」の信用取引被害における具体的な応用と言えると思います。

4, 大阪高裁平成20年9月判決(先物取引)
  控訴人はガソリンスタンド経営の株式会社ですが、ガソリンの先物取引を行い、多額(約5800万円)の損害を被りました。代表者には株式信用取引の経験がありました。取引開始前には先物取引の説明を省略するように述べたりしています。取引の途中でも自らの判断で取引に積極的に関わる意向を示したこともあったと認定されています。含み損が大きくなった時に、自ら取り戻すとして、多額の借金をして追加投資しています。
  しかし、大阪高裁平成20年9月判決は、そのような積極的な意向があり、取引にも関わった投資家に対しても、先物業者には指導助言義務があるとして本件では指導助言義務違反があると認定しました。
  すなわち「外務員の方針は、追証が発生した場合に追証を入れるか手仕舞うかとの選択肢を示すことなく、追証の差入れつまり取引継続に誘導する点で一貫しており、追証発生の時点では、値洗い損失が拡大しているのであるから、追証を入れて取引を継続することはリスクを更に大きくする可能性があることを示唆したり、手仕舞いをして取引を終了させることは損失を確定させてしまうが更なるリスクは回避できることなどを適切に指導助言する注意義務に違反している。しかも外務員は、控訴人の原資が余裕資金ではなく、銀行借入であると認識していたのであるから、なおいっそうリスクの拡大を防ぐよう適切な指導助言をすべき義務があった」としています。

5, まとめ
  上記大阪高裁判決は、いずれも、投資家側にかなりの投資経験があり、かつ積極的な投資意向があって、取引にも関わった(と認定された)ケースで、これまでの裁判では、勝訴すること自体が容易ではないとされてきた類型に属すると思われます。
  しかし、2つの大阪高裁判決は、そういった(豊富な投資経験、積極的な投資意向、取引への具体的関与)投資家であっても、証券会社、先物会社には高度の指導助言義務があるとして、損害賠償を認めたもの(ただしいずれのケースも過失相殺は8割)で、この指導助言義務は、投資被害救済において『最後の砦』とも呼ぶべき重要な観念になっていくものと考えられます。

(内橋一郎)

以上

弁護士内橋一郎
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