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2009.05.25 コラム一覧に戻る
介護事故判例の現況とその読み方B (内橋一郎)
3,転倒事故について
(1)転倒・転落の予見と見守り義務

@高齢者は転倒頻度が高く、日常的によく見られるところです。65才以上の3人に1人が毎年転倒し、75才以上になると急激に転倒頻度が上昇しているとのことです。そういった転倒リスクを持った利用者(被介護者)を介護する立場にある介護者には、利用者の動静を見守り、転倒を防止する安全配慮義務があるのか、いかなる場合にどういった安全配慮義務があるのかが問題とされました。

A東京地裁平成8年4月15日判決(判時1588−117,『(改訂版)介護トラブルの処方箋』判例No1、判時1588−117)は、病院に入院中の、軽度の認知症でパーキンソン病の患者が午前4時頃に、ベッドから転落して、側頭部を打撲し、死亡するに至ったケースについて、事故発生日と近接した日時にベッドから立ち上がり、転落したこと等から、再度ベッドから転落することは予測できたのであり、ベッドからの転落を防止ため、看護師らには、頻回な巡回が求められるが、そのような注意義務を履行していなかった(※1)として、病院の過失を認めました(ただし、頻回に巡回していたとしても、転落を防止できるとは限らないとして、1000万円の死亡慰謝料の請求は否定しましたが、適切な看護を受ける権利の侵害があったことによる遺族の慰謝料として200万円の損害賠償を認めました)。
人の手当が手薄になる、夜間での転倒事故について、どう考えるかは難しい問題です。本件は病院での事故ですが、介護事故にも参考にできると思います。

B福岡地裁平成15年8月27日判決(判時1843−133,No10)は、視力が低下し、独立歩行困難ではあるが物に掴まっての歩行は可能な95才のデイケア中の女性A(過去の通所回数52回)が、静養室での昼寝から目を覚まし、静養室の入口付近まで移動し、40pの段差から転落し、大腿骨骨折したケースについて、当時、施設職員は2名で、7名の利用者の見守り(※2)していたが、Aは歩行困難のため転倒の危険がある事実、尿意の際、トイレに向かおうとしたことがあった事実、起き上がり、いざって移動可能な事実等から、Aが昼寝の最中に尿意を催し、起き上がり、移動することは予見可能であるとして、利用者が目を覚まして移動を開始した場合に、すぐに気付いて、対応できる状態で見守りする義務が職員にあり、安全配慮義務違反があるとして傷害慰謝料120万円、後遺障害慰謝料350万円の合計470万円の損害賠償を認めました。

C大阪高裁平成16年5月13日判決(判例集未掲載,No14)は、パーキンソン病で認知症の87才のショートステイ中の利用者が、午前6時30分頃、洗面所付近で転倒し、脳挫傷等の傷害を負ったケースについて、過去施設を利用した際転倒事故はなく、自宅での転倒は殆どなかったし、当日の心身の状況も特段問題ないとし、本件事故を回避するには、異常を察知した時に直ちに介助できる距離で被害者を常に見守ることが必要であるが、全利用者にこのような義務を負うとするのは過重である(身体状況等から転倒の危険性が特に高く、他に適切な対応策がない場合のみこのような見守り・介助義務が生じる)として、損害賠償請求を否定しました。

(2)利用者の側からの介添え拒否

@利用者の側から、介添えが不要との意向が示された場合、その意向に添って介添えをしなかった介護者は免責されるのかが問題になりました。

A東京地裁平成15年9月29日判決(判時1843−69,NO11)は、多発性脳梗塞と左上下肢麻痺のある72才の患者が午前6時頃、トイレに行く際は介添えしたが、利用者が大丈夫というので帰りは介添えしなかったところ、6時30分頃、トイレの帰りにベッド付近で転倒して4日後死亡したケースについて、入院先病院では当該患者がトイレに行くには看護師が必ず介添えすることになっており、本件でも、利用者がトイレに行き来する際には必ず付き添い、転倒事故を防止する義務があったとして、逸失利益、慰謝料合計で約540万円の損害賠償責任を肯定しました(患者が付き添いを断った等から、8割の過失相殺をしています)。

B横浜地裁平成17年3月22日判決(判時1895−91,判タ1217−263,No16)は、施設内は常時杖をついて歩行していたデイサービス利用の85才の女性に職員が付添、トイレ(前)までいったが、トイレ内の同行を拒否されたため、便器まで1人で歩かせたところ、転倒し、大腿骨内側骨折したケースについて、介護拒絶の意思が示された場合でも介護の専門知識を有すべき介護義務者においては、要介護者に対し、介護を受けない場合の危険性とその危険性を回避するための介護の必要性とを専門的見地から、意を尽くして説明し、介護を受けるように説得すべきであるとして、患者の損害を治療費、入院雑費、近親者介護料、入浴サービス料、器具、リース料、家屋改造費、入通院慰謝料、後遺症慰謝料等1630万円あまりと認定し、利用者が自分1人で大丈夫と言ってトイレの戸を閉め、歩き転倒した過失について、3割の過失相殺をして、1250万円あまりの損害賠償責任を認めました。

(3)待機指示

@介護者が1人では歩行困難な利用者(被介護者)に対し、その場に止まるよう指示をして、その場を離れた隙に利用者(被介護者)が歩き出して転倒した場合の介護者の責任が問われたケースがあります。

A東京地裁平成10年7月28日判決(判時1665−84,No2)は、脳内出血で左半身麻痺だが、近位監視歩行が可能な59才の利用者に対し、ボランティアが、リハビリ施設玄関のタクシー乗り場まで歩行介助し、待機指示をしてタクシーを呼びに現場を離れたところ、利用者が転倒し、大腿骨頭部骨折を負ったケースについて、利用者は10分程度立位が可能であること、待機指示を理解していたこと等から、利用者は、指示された場所で待つべきであって、介護者に過失はないとしました。

B福岡高裁平成19年1月25日判決(判タ1247−226,No21)は、特別養護老人ホーム入所中の、視覚障害はあるが意思疎通可能であり、介助又は手すり伝いに歩行できる82才の利用者が風邪気味であったので、居室内で朝食を取らせるため、椅子に座らせて、配膳を待つよう指示し、配膳のため25分ほど居室を離れたところ、居室から離れた食堂付近で転倒し骨折したケースについて、意思疎通は可能であり、前日まで指示に従わないで居室を離れたことはなく、当日も指示に従わない様子はなく、本件事故が発生する具体的おそれはなく、予見が可能であったとはいえないとしました。

C大阪高裁平成19年3月6日判決(賃金と社会保障1447−54,No22)は、グループホーム利用中の認知症の79才の利用者を、入浴させるために、1階の食堂から2階のリビングに移動させ、リビングの椅子に座らせて、待機指示をして、浴室で入浴準備したところ、トイレ付近で転倒し、大腿骨頸部骨折を負ったケースについて、1階の食堂から2階のリビングに移動されるという場面転回による症状動揺の可能性があったこと、頻回にトイレに行く行動傾向があること、待機指示を理解できず、また一旦理解しても忘却し、不穏行動に出ることが容易に推測可能であったこと、歩行が不安定であること等を指摘し、待機指示を守れるか、仮に歩行開始した場合、独歩に委ねて差し支えないか等の見通しだけは事前確認する義務があったとして、損害賠償として、入院費用、入院雑費、付添看護費用、傷害慰謝料の合計400万円を認めました。

※1 転落事故のあった当日は午前2時以降4時の転倒まで患者の動静を観察したことは窺えないとしています。
※2 本件事故当時、静養室の前にテーブルを囲むように、3個のソファーがコの字型に配置され、ソファー2個及び椅子に利用者5名が座っており、ソファーに利用者1名が寝ており、職員の1人は静養室に背を向ける形でソファーに座り、もう1人はソファーから少し離れた机で記録を作成しており、静養室の内部を見ることはできない状態でした。

                                               以 上
                                           弁護士 内橋一郎

以上

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