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2009.07.31 コラム一覧に戻る
証券判例探索@〜仕組み債(EB債)と説明義務(大阪地裁平成15年11月4日判決)
1,米国における証券事件の多くが仲裁制度によって解決されている今、証券の判例法理を世界的にリードしているのは日本の裁判所であり、弁護士であると言われています。判例集に掲載された証券判例は400あまりありますが、実に多様な証券判例が生まれています。以下では、近時の証券判例のなかから、これからも影響力があるであろうと考えられる注目判例・重要判例を、不定期ではありますが、紹介していきたいと思います。
 最初は、EB債の説明義務について判示した大阪地裁平成15年11月4日判決(判時1844−97)を紹介したいと思います。
 原告は、小さな会社の社長とその妻であり、証券会社との取引は、妻が担当者の勧誘に基づいて行っており、過去の取引内容は、JR株の公募買付及び売却、また外債、日経平均連動債、株式投信の取引もあったようです。そして担当者の勧誘により、NTTドコモ株を対象株式とするEB債を夫名義で、東芝株を対象株式とするEB債を妻名義で購入したところ、本件の各EB債は、いずれも対象株式の株価が下落して株式償還となり、原告らは株価下落による損失を被ったため、適合性原則違反及び説明義務違反を理由に、本件訴訟を提起したというケースです。

2, EB債とは、他社株式転換社債のことをいいます。
 償還日が例えば3ヶ月と短期で、金利が例えば8%と高金利の社債です。
 これだけだと、いいことばかりのようにも思えるですが、1つの条件があって、元本の償還を受けるには、社債を発行する会社(例えば、P銀行)とは別の会社(例えばS社)の株式(対象株式といいます)の株価が、償還時(正確には償還前の評価日)に、予め定めた行使価格を上回ることが必要なのです。行使価格を株価が上回れば、元本の償還を受けられるが、下回った時は、その株式で償還を受けるというものです。そして、社債額面は、対象株式とほぼ同じに設定されています。
 例えば、発行体−P銀行、対象株式―S、評価日−10月2日、行使価格−105円、クーポン−8%というEB債があったとします。
 仮に、このEB債を購入せず、対象株式を購入した場合、株価が下落した時には株価下落のリスクを負担しますが、上場した場合には株価上昇のリターンを得ることができます。株価100円の株を買ったが、80円に下落すれば20円の損ですが、120円に値上がりすれば20円の儲けになります。しかし、EB債の場合、株価下落した場合、対象株式で償還されますから、EB債を100円で買ったが、対象株式の株価が80円になればその値下がりした株式で償還を受けるので、20円の損になり、株価下落のリスクを負担します。しかし、120円に値上がりしても、社債額面の100円の償還を受けるだけで、リターンを得ることはできません。EB債は株価下落の場合にそのリスクを負担するのに、 株価が上昇しても償還額以上は得られないという、リターンとリスクの不均衡があります。
 またEB債は、途中で売却することもできません。

3,社債を発行した会社が、対象株式の株価が行使価格を下回った場合に、現金で償還せずに、株式で償還できるのは、EB社債が、株式プットオプションが組み込まれた、仕組み債であるからです。
 「プットオプション」とは「予め定められた価格(行使価格)で、行使時期に、原資産を売る権利」をいいます。EB債の場合、EB債購入時に、顧客は発行体から社債を購入しますが、それと同時に、社債額面額(発行時のS社の株価)で、対象株式(S社株)を売り付けるプットオプションを、発行体に売却し、発行体がプットオプションを取得しているため、評価日に株価が行使価格を下回った場合、発行体は権利行使し、株式を売り付けるので、顧客は現金ではなく、(価格の下落した=時価と比して割高な)S社株で、償還を受けることになります。
 EBは他社株式転換社債、英語で言えば、Exchangeable Bondの略ですが、Exchangeできるのは、社債を購入した顧客ではなく、発行体ということなのです。
発行体からすれば、株価が下落して行使価格を下回れば通常の社債であれば100円の償還をしなければならないところ、EBでは下落した株式で償還すればよいことになります。

4,EB債では表面上例えば8%という高金利のクーポンが設定されています。しかし、その実質はプットオプションの対価(プレミアム)なのです。
 プレミアムは、アレンジャーと呼ばれる商品の企画・設計者(証券会社)が対象株価の変動の幅と確率を予想し、予測される株価と権利行使価格を考慮して、支払うべきプレミアムを算定します。
 そして株価が下落する幅とその確率が高ければ高いほど、プレミアムは高くなります。
 逆に言えば、プレミアムが高ければ高い程、高額・高率のリスクを負わされているのです。

5,大阪地裁平成15年判決は、次のように言っています。
 判決は、EB債の基本構造について、「株式プットオプションを売却した場合と近似した効果をもつ」、「EB購入者は株式プットオプションの売り手と同様の危険を負担する地位に立つと言っても差し支えない」とした上で、(ア)リスクとリターンの非対称性(クーポンを上回る利益は得られない一方で、価格下落に応じた損失を被る)、(イ)損失の回避可能性の欠如(購入代金は前払い、クーポンは後払いで、途中売却もできないため、購入者は、期限到来前に損失を回避する可能性がない)、(ウ)利害相反(株価変動度合いの大きい商品を設計すれば、業者が利益を得る確率が高まる一方、株価下落のリスクは購入者のみに帰属する)という特徴があるとの3点を指摘しています。
 次いで、判決は、EB債が、「一般投資家にとっては、通常売却が容易でかつ元本割れがほとんどない円建ての社債のように見え、・・・(中略)・・・一見しただけでは比較的安全性の高い商品であるとの誤解を招きやすいと考えられ、このような一種誤導的な要素も勘案するならば、EBに内在する危険性は相当高いものであったといわざるをえない」として、一般投資家がEB債の買付を自己責任において決定するには、@)株価が計算日に一定額を下回れば、EBの額面金額より低い株価の対象株式を引き受ける義務を負い、差額相当の評価損を被るリスクがあること、A)途中売却できないため、かかる評価損の軽減ないし回避ができないこと、B)EB債においては、構造上、株価変動度合いが高いほど業者の利益は大きくなり、クーポンも高くなることから、「通常の社債としての利率相当分を超えるクーポンは、下落した株式でEB購入者に償還されるというリスクの実質的な対価に他ならない」、「一般投資家が、元本保証の商品と誤解し、あるいは元本割れのリスクを軽視し、クーポンの利率のみに目を奪われがちであることは容易に想定できる。このような一般投資家の誤解を防止し、EBに内在する危険を避けるために、高利率のクーポンは株式償還による元本割れリスクの対価であり、その大きさと連動することを理解することが必要不可欠であると考えられる。」として、上記@)A)B)の3つの理解が必要であり、かかる理解ができない者はEB債購入者としての適合性を欠くとしました。
 そして、判決は、原告らの過去の取引経験等から適合性原則違反を否定しましたが、説明義務について、証券会社には、当該EB債の条件のみならず上記の3点を説明する義務があるとし、@)A)の説明はあったが、上記B)の点の説明はなかったとして、上記事項についての説明が欠如すれば、本件ドコモEBのクーポンの対価として実際に負担することとなるドコモ株による株式償還リスクの程度を具体的に理解することはできないから」説明義務違反となると結論付けました。

6,大阪地裁平成15年判決は、商品構造を分析した上で、説明義務の内容を上記のように、高度化し、(B)の説明が必要であるとしました。(@)、(A)は説明しているでしょうが、(B)はまず説明していないと思われます。なぜなら販売している外務員がそのことを知らないことが少なくないと考えられるからです。
 しばしば消費者被害事例では、セールストークやどのように説明したかの問題になると、『言った、言わない』の水掛け論になり、立証が難しく救済が困難な場合が少なくないとの指摘があります。確かに、そういう場合も少なくないと思います。しかし、EB債のケースでは、商品構造を分析し、説明義務を高度化することにより、単なる『言った言わない』という、水掛け論ではなく、商品構造に関する説明義務の問題として決着をつけることができたのです。
近時、地方自治体がデリバティブを組み込んだ仕組み債を購入し、莫大な評価損が生じていることが報道されていました(09年7月8日朝日新聞)。地方自治体だけではなく、個人レベルでも、仕組み債が販売され、損失を発生させ、訴訟になっているとも聞きます。
 本件のEB債判決は、こういった仕組み債の問題を考える上で、とても参考になると考えます。
                                             以 上
                                      ( 内 橋 一 郎 )

(参考文献)
・全国証券問題研究会ホームページ
・新保恵志「金融商品とどうつき合うか−仕組みとリスク」

以上

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