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2012.11.27 コラム一覧に戻る
保険法実務ノート(8)交通事故をめぐる保険〜自動車保険C
保険法実務ノート(8)交通事故をめぐる保険〜自動車保険C
                                        弁護士 内橋一郎
今回は、自動車保険の4回目です。搭乗者保険と車両保険をまとめました。

W搭乗者害保険
1,趣旨
 搭乗者傷害保険とは、被保険者の運転者、同乗者、保有者に生じた損害を担保する保険です。
 対人賠償保険や対物賠償保険が自動車事故に起因して被保険者が第三者の生命、身体、財物に損害を与えたことによる損害賠償責任を担保するのに対し、搭乗者傷害保険は、被保険車に搭乗中の運転者や同乗者、保有者本人について生じた損害を担保するものです。自損事故の場合も担保されます。
2,保険事故
 搭乗者保険の保険事故は、(ア)被保険者自動車の運行に起因する事故、(イ)被保険者自動車の運行中の、飛来中もしくは落下中の他物との衝突、火災または爆発、被保険自動車の落下という、急激、偶然、外来の事故により、身体傷害を被った場合です。
3,被保険者の範囲
(1)搭乗者保険の被保険者は、被保険自動車の正規の乗車装置または当該装置のある室内に搭乗中の者とされています。
 もうすこし詳しくみていきます。
(2)「正規の乗車装置またはその装置のある室内に搭乗中」(隔壁等により通行できないように仕切られている場所を除 く)とは
@「正規の乗車装置」
・乗車人員が動揺、衝撃等により転落または転倒することなく、安全な乗車を確保できるような構造を備えた場所(「道路運送車両の保安基準20条」)をいいます。
・運転席・助手席・車室内の座席等(運輸省通達「自動車検査業務等実施要領」4‐13)がこれに該当します。
※最判平成7年5月30日(百選○38、判時1554号147頁、判タ898号199頁)
・後部座席の背もたれを前方に倒して折り畳むことで後部座席背面と荷台部分とを同一平面として一体として利用し、すこし身体を起こして横たわっていたところ、追突され、自動車後部の貨物積載用扉が開き、荷台部分にあった商品と共に路上に投げ出されたというケースについて
・最高裁は「正規の乗車用構造装置のある場所とは、乗車用構造装置がその本来の機能を果たし得る状態におかれている場所をいう」、「貨客兼用自動車の後部座席の背もたれ部分を前方に倒して畳まれた後部座席背もたれ部分の背面と車両後部の荷台とを一体として利用している状態にあるから」、「右の状態においては、後部座席はもはや座席が本来備えるべき機能、構造を喪失していたものであって、右の場所は正規の乗車用構造装置のある場所にあたらない」と判示しました。
Aその装置のある室内
・正規の乗車装置のある車室内をいいます。
・通路、床などにいて、座席に座っていない者も、正規の乗車装置のある室内であれば被保険者に入るとされています。
B隔壁等により通行できないように仕切られている場所
・正規の乗車装置のある室内と障壁等により行き来できない構造となっている荷台をいいます。
・ワンボックスの貨物車で後ろの荷台スペースと運転席、助手席との間に保護棒や障壁で仕切があり、車内では運転室と荷台との間を行き来できない構造の場合は、当該荷台スペースに搭乗中の者は被保険者にはならないとされています。
C搭乗中
・正規の乗車装置またはその装置のある室内に乗車するため、手足または腰等をドア、床、ステップまたは座席にかけた時から、降車のために車外に両足をつける時までをいいます。
※最判平成19年5月29日(百選○39判時1989号131頁)
・夜間高速道路において自動車を運転中に自損事故を起こして、車外に避難した運転手が後続車に轢かれて、死亡したケースについて
・最高裁は、れき過の場所は車両の外ではあるが、「自損事故により本件車両内にとどまっていれば後続車の衝突等により身体の損傷を受けかねない切迫した危険にさらされ、その危険を避けるために車外に避難せざるを得ない状況におかれたものというべきである。そうすると、自損事故とAの礫過による死亡は相当因果関係が認められ」、「運行起因事故と相当因果関係のある被保険者が被保険自動車の搭乗中に被ったものに限定されるものではない」としました。
(3)「極めて異常かつ危険な方法で被保険自動車に搭乗中の者」等は被保険者には含まない。
 いゆわる「箱乗り」のように、客観的にその態様が「極めて異常かつ危険な」のものに限って、保険の保護の対象から外すことを明確化しました。
4,免責事由
@被保険者の故意または重過失、無免許運転、麻薬等の影響で正常な運転ができない恐れがある状態で被保険自動車を運転している場合、酒気帯び運転の場合等で、その本人に生じた傷害
A保険金を受け取るべき者の故意によって保険事故が生じた場合で、その者が受け取るべき金額
5,搭乗者傷害保険金と損益相殺、慰謝料算定
(1)搭乗者傷害保険金と損益相殺
 搭乗者傷害保険金を受け取った場合に、損害賠償金から差し引かれるのかについては、最高裁判決があります。
※最判平成7年1月30日(百選○40判時1524号48頁判タ874号126頁)
「搭乗者傷害保険条項に基づく死亡保険金は、被保険者が被った損害をてん補する性質を有するものではないというべきである。けだし、本件条項は保険契約者及びその家族、知人等が被保険自動車に登場する機会が多いことにかんがみ、右の搭乗者又はその相続人に定額の保険金を給付することによって、これらの者を保護しようとするものと解するのが相当だからである。そうすると、本件条項に基づく死亡保険金を右被保険者の相続人であるXらの損害額から控除することはできないというべきである」。
(2)慰謝料の考慮要素
 搭乗者傷害保険金の支払が慰謝料算定において斟酌(控除)されるかどうかについては議論があり、肯定する学説もあります。
この点につき、上記の最判平成7年1月30日は「被保険者が被った損害をてん補する性質を有するものではない」と明言しました。
そうだとすれば、慰謝料も損害項目の1つですから、斟酌(控除)されないと解すべきではないかと考えます。

X 車両保険
1,趣旨
・車両保険は、衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、洪水、高潮その他「偶然な事故」によって、被保険自動車に生じた損害を担保する保険である。
・  「偶然な事故」とは、保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべて保険事故とすることを分かりやすく例示したもので、商法629条の「偶然なる一定の事故」を保険契約に即して規定したものであって、「偶然なる事故」は保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基づかないものであること(保険の偶発性)をいうものではない(最判平成18年6月1日=百選○43判時1943号11頁判タ1218号187頁)。
2,保険事故
 衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、洪水、高潮その他「偶然な事故」
3,被保険者の範囲
 被保険自動車の所有者
4,免責事由
@保険契約者、被保険者の故意または重過失
A戦争・暴動危険による損害、天災危険による損害等
5,主張立証責任
※最判平成18年6月1日(百選○43判時1943号11頁判タ1218号187頁)
車両の水没事故につき、「車両の水没が保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は、事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることについて主張立証すべき責任を負わない」
※最判平成19年4月17日(百選○44判時1970号32頁判タ1242号104頁)
自動車の盗難事故につき、「『被保険自動車の盗難』が他の保険事故と区別して記載されているのは、本件約款が保険事故として『被保険自動車の盗難』を含むものであることを保険契約者や被保険者に対して明確にするためのものと解すべきであり、少なくとも保険事故の発生や免責事由について他の保険事故と異なる主張立証責任を定めたものと解することはできない」、「一般に盗難とは、占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転であると解することができるが、被保険者の盗難という保険事故が保険契約者、被保険者の意思に基づいて発生したことは、本件条項2により、保険者において免責事由として主張立証すべき事項であるから、被保険者の盗難という保険事故が発生したとして本件条項1に基づいて車両保険金の支払を請求する者は『被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険者自動車をその所在から持ち去ったこと』という外形的な事実を主張立証すれば足り、被保険者の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張立証すべき責任を負わない」。

以上

弁護士内橋一郎
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