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2013.4.19 コラム一覧に戻る
最近の保険判例から
最近の保険判例から                              弁護士内橋一郎

1.保険事故は、弁護士になりたての頃(30年近く前のことになります)から手掛けてきましたが、入浴中の溺死事案(=大阪高判平成17年12月1日判時1944−154、保険法百選99)を担当して以降、とりわけ「傷害保険の外来性要件」について関心を持つようになりました。
この「傷害保険の外来性要件」に関して、最近(この4月16日です)、一審(神戸地判22年9月14日=判時2106−141)が保険金請求を認容したのに対し、二審(大阪高判23年2月23日=判時2121−134)、が一審を取り消して請求棄却したのを、さらに最高裁(最判平成25年4月16日=最高裁HP)が、二審判決を取り消して差し戻すという興味深い判決がありましたのでご紹介します。事案の概要は次のようなものです。
 Aは、平成20年12月、帰宅の途中で飲酒を伴う飲食後、午後10時頃帰宅後、フライドチキンを食べながら、梅酒ロックを飲み、病院で処方された向精神薬を服用した上、1階リビングでうたた寝をしていたところ、翌午前1時30分〜2時頃、配偶者Bに起こされ、その起きざまに、飲み残しの梅酒ロックを手に取り、一口飲もうとした途端、口腔内に嘔吐し、その嘔吐物を誤嚥して、窒息し、「うっ」と言って倒れ、意識不明に陥りました。救急車で病院に搬送されたが、病院到着時の午前3時には心肺停止状態になり、蘇生措置に反応がなく死亡が確認されました。死亡推定時刻は午前2時頃とされています。Aの遺族らが損害保険会社に対し、普通傷害保険契約における「急激かつ偶然な外来の事故」に該当するとして保険金請求訴訟を提起しました。

2.神戸地裁平成22年9月14日判決(判例時報2106−141)は、Aは、うたた寝から覚めて起きざまにアルコールを摂取しようとしたことがきっかけとなり、(身体の外部からの作用)、うたた寝前に身体の外部から摂取していたアルコールの影響と同じくうたた寝前に服用していた向精神薬の副作用(いずれも身体の外から摂取した物に起因する作用であって、疾病に基づく作用であるとはいえない)が相まって、にわかに、予期しない嘔吐、誤嚥、気道閉塞となり窒息死するに至ったことになるから、Aは「急激かつ偶然の外来の事故」により死亡したものと認めるのが相当であるとして、保険金請求を認容しました。
これに対し、大阪高裁平成23年2月23日判決(判例時報2121−134)は、「外来の事故」とは、「被保険者の身体の外部からの作用による事故」をいうが、これは外部からの作用が直接の原因となって生じた事故をいうのであって、薬物、アルコール、ウィルス、細菌等が外部から体内に摂取され、あるいは侵入し、これによって生じた身体の異変や不調によって生じた事故は含まれないものとして一審判決を取り消し、請求を棄却しました。その理由は、後者を含むと解すると、社会通念上「疾病」と理解されている事例も含まれることとなって、「傷害」に対して保険金を支払うという傷害保険の趣旨を逸脱する結果になるし、「外来の事故」によって、保険金支払の原因となる事故とそうでない事故を明確に区別しようとした約款の趣旨に合致しないというものです。Aに起こった窒息は、嘔吐により、食道ないし胃の中の食物残渣が吐物となって逆流し、折から、Aの気道反射が著しく低下していたために、これが気道内に流入して生じたものであって、気道反射の著しい低下は、数時間前から1、2時間前の間に体内に摂取したアルコールや服用していた向精神薬の影響による中枢神経の抑制、知覚、運動機能の低下等が原因であるから、上記窒息は、外部からの作用が直接の原因となったものではないとし、また梅酒ロックを飲もうとしたことが嘔吐の契機となったとしても、それは契機にすぎず、これによって嘔吐や気道閉塞が生じたものではないとしました。

3.私はこの大阪高裁判決に対して大きな疑問を持っていました。
大阪高裁判決は、外来の事故を、外部からの作用が「直接の原因」となって生じた事故に限定する根拠として、そう解しないと、薬物・アルコールの摂取やウィルス・細菌等の侵入から生じた身体の異変や不調によって生じた事故も外来の事故となる等社会通念上「疾病」と理解されている事例も含まれることとなり、「傷害」に対して保険金を支払うという傷害保険の趣旨を逸脱する点を挙げています。しかし、傷害保険契約における傷害は、日常用語でいう怪我よりも広い概念で、外観上明らかな傷痕を残す必要はなく、ガス中毒死等も含まれます。また急激・偶然・外来の事故に基づくものであれば疾病も含まれるのであって、例えば屋外で寒気のために動けなくなり、肺炎により死亡した場合も傷害とされています。本件の普通傷害保険約款も「身体外部から有毒ガスまたは有毒物質を偶然かつ一時的に吸入または摂取したときに急激に生じる中毒症状を含むとしています(ただ、細菌性食中毒及びウィルス性食中毒を含まない」としています)。そうだとすると、身体外部から有毒物質を摂取して中毒症状を発現した場合と本件の薬物・アルコールの摂取により嘔吐・誤嚥・気道閉塞を生じた場合とで質的な差異があるとは考えられません。
大阪高裁判決は、社会通念上「疾病」と理解されている例として、ウィルス・細菌の侵入から生じた身体的不調と並んで、薬物・アルコールの摂取による場合を挙げますが、前者は社会観念上疾病とされるとしても、後者はそうとは言えないように思えます。
本件は、薬物・アルコールの摂取という外部的作用により、嘔吐・誤嚥・気道閉塞という傷害を発生させたのであって、窒息死は傷害の結果と考えるべきではないだろうかと考えました(第一審の神戸地裁判決はこの立場に立つものです)。

4.そうしたところ、最判平成25年4月16日は、誤嚥は嚥下した物が食道にではなく気管に入ることをいうのであり、身体の外部からの作用を当然伴っているのであって、その作用によるものというべきであるから、本件約款にいう外来の事故に該当するとするのが相当であり、この理は誤嚥による気道閉塞を生じさせた物がもともと被保険者の胃の内容物であった吐物であるとしても同様であるとして、二審判決を取り消し、差し戻しました。
 最高裁の論理は、体内にあり胃の内容物であって、本来の食道ではなく、気道に入ったのだから、外来性の要件を満たすというシンプルなものでした。
そういえばそうだなというのが正直な感想です。  

以上

弁護士内橋一郎
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