(イ) しかし、「MRSA感染後の治療」には過失があったとしました。 @ 7月19日、感染症の臨床症状がみられた上、検査所見も感染症を疑わせるものであるから、被告病院小児科医師は同日の時点で原告が何らかの感染症に罹患していることを予見できた。 A 同月20日には、既に感染症の存在を強く疑わせるものになっていたところ、被告病院小児科医師は原告に対し、20日からセフェム系のクラフォランを投与したが、21日になっても発熱継続、CRP上昇、血小板減少等の感染症の進行が認められた。 B 新生児敗血症には、生後72時間以内に発症する早発型敗血症とそれ以後に発症する遅発性敗血症とに分けられる、遅発性敗血症の起因菌としてはメシチリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MRCNS)、MRSAによるものが過半数を占めるが、我が国のNICUにおけるMRSAの保菌率が高く、MRSAが主要な起因菌になっていること、MRSAは広くβ−ラクタム剤と呼称される抗菌剤(ペニシリン系、セフェム系、モノバクタム系、カンバペネム系)にも耐性を示す多剤耐性黄色ブドウ球菌であり、平成3年にバンコマイシンが使用承認された後はペニシリン系のビクシリン、セフェム系のクラフォランはあまり使用されなくなっていたことから、ビクシリンを投与してから48時間を経過した7月21日の時点でペニシリン系の抗菌剤は無効であり、セフェム系の抗菌剤も効果がなく、原告の感染症の起因菌としてはMRSAの可能性があることを予見できた。 C したがって7月21日の時点で、原告の感染症の起因菌として、MRSAの可能性があることを予見できたのだから、この時点に至ってはMRSA感染に関しての治療を行うべきであって、MRSAに対する効果に疑問のあるビクシリン及びクラフォランを投与するだけでは足りず、MRSAに対して有効な、第一選択薬であるバンコマイシンを投与すべきであった。