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2015.11.02 コラム一覧に戻る
『倚りかからず』
『 倚りかからず 』
                            
                                         弁護士 内橋一郎
1.  弁護士という職業は、孤独な作業の積み重ねである。
 仕事柄、依頼者・相談者の方から、「こういう場合、法律(ないし裁判)ではどうなるのですか」と質問される。しかし、質問されたケースに、法律や判例を単純に当てはめるだけで結論が出る場合はそう多くはない。問題のケースに適用する法律の規定がなかったり、ケースにぴったりとあう判例がない場合も少なくない。TVの法律クイズ番組などでは、正解はこうですと、もっともらしく回答しているが、実際の相談事例、裁判事例は、そんな単純なものではない。
そういう時は、手持ちの証拠の1つ1つを精査し、あるいはすこしでも関連しそうな裁判例や法律書等を調べあげ、解決のヒントを探る。医療、建築などの専門性の高い分野では、その分野の専門家(医師、建築士等)の意見を聞きにも行く。あるいは、仲間の弁護士と事案の概要について議論することもある。
しかし、最後は、自分で決断しなければならない。

2.  この春頃だったろうか、後藤正治さんが書かれた「清冽 詩人茨木のり子の肖像」(中公文庫)を読んだ。茨木のり子さんの足跡をたどりながら、すなわち、家族(両親、配偶者)、親族、友人、交流のある詩人や芸術家達等に取材しながら、詩人茨木のり子の肖像を描こうという作品だ。
 後藤さんは、その著書でこう書いている。
 「(茨木のり子の訃報が伝えられて)以降、しばしば、外出時には茨木の詩集を鞄に入れ、あるいは詩集を手に近所の喫茶店に出向くようになった。ほとんど暗唱してい詩句に目を走らせ、それまで素通りしてきた言葉に立ち止まる。己をふと鼓舞してくれたり、あるいは逆にふがいなさやいたらなさを知らしめたりする」、「覚えたものは時々によってさまざまであるが、澄んだ流水に接して身を洗われるごとき感覚はかわらない(中略)」、「このよう詩句を紡いだ詩人の足跡をたどってみたい」と。
   また、後藤さんの著書(中公文庫)の解説を書いた、梯久美子さんは、このように
書いている。
   「本書は茨木のり子という詩人の、人間としてのあたたかさや豊かさと同時に、表現者としてのきびしさと烈しさを伝えてくれる。後藤正治氏の描き出す詩人の肖像にふれるうちに、読者は自分自身の人生を見つめ、問い直さざるを得なくなる。このように人を慈しんだか。誠実に時代に向かい合い、果敢に自分の仕事をしたか、と」。

3.  茨木さんの詩を引用したい。
『倚りかからず』
もはや 
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや 
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
 できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威には倚りかかりたくない
ながく生きて 心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目 じぶんの二本足のみで立っていて なに不都合のことやある

倚りかかるとすれば、それは 椅子の背もたれだけ

4.  もうひとつだけ、引用したい。
 『苦しみの日々 哀しみの日々』
 苦しみの日々
 哀しみの日々
 それはひとを少しはふかくするだろう。
 わずか五ミリぐらいであろうけど
 
 さなかには心臓も凍結
 息をするのさえも難しいほどだが
 なんとか通り抜けたとき 初めて気付く
 あれはみずからを養うに足る時間だったと

 少しずつ 少しずつ深くなってゆけば
 やがては解るようになるだろう
 人の痛みも 柘榴のような傷口も
 (中略)

 受けとめるしかない。
 折々の小さな棘や 病でさえも
 はしゃぎや 浮かれのなかには
 自己省察の要素は皆無なのだから

5.   さて、11月になった。
    2015年、いろいろなことがあった。うれしかったこと、感動したこと、残念だったこと、腹立たしかったこと・・。
過ぎてしまえば、あっという間の十か月であり、あとの二ヶ月も気忙しく過ぎていくだろう。

いま、ぼくは、後藤さんをまねて、(後藤さんが書かれた)「清冽 詩人茨木のり子の肖像」を鞄に入れている。
「さなかには心臓も凍結。息をするのさえも難しいほどだが。なんとか通り抜けたとき 初めて気付く。あれはみずからを養うに足る時間だったと」思いつつ。
                                                     以 上

以上

弁護士内橋一郎
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