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 1,保険契約の種類
(1) 保険契約には、損害保険契約、生命保険契約、傷害疾病保険契約があります。

(2) 損害保険契約は、保険者が一定の偶然の事故によって生じる損害をてん補することを約する保険契約で、火災保険、自動車保険における車両保険、賠償責任保険などがこれにあたります。

(3) 生命保険契約とは、保険者が人の生存または死亡に関して、一定の保険金を支払う保険契約で、死亡保険、生存保険、養老保険等がこれにあたります。

(4) 傷害疾病保険契約とは、保険者が人の傷害または疾病に基づいて保険給付を行う保険で、被保険者が受けた損害をてん補するものと、一定額の保険給付を行うものがあります。前者を傷害疾病損害保険、後者を同定額保険といいます。
 2,保険事故における『偶然性』・『外来性』をめぐる最近の最高裁判例
(1) 保険金請求訴訟において、保険事故の『偶然性』や『外来性』を、保険金請求者と保険者のいずれがどのような立証責任を負うのかは極めて重要な意味を持ちます。
  近時、『偶然性』や『外来性』の立証責任に関する最高裁判例が相次いで出ており、実務上きわめて重要ですので、ご紹介します。

(2) 『偶然性』について
@ 要件事実の立証責任についての通説である「法律要件分類説」によれば、権利根拠規定の要件事実は保険金請求者、権利障害規定の要件事実は保険者が立証すべきこととされています。
  『偶然性』については、保険事故の要件として含まれる(と解釈することができる)一方で、故意すなわち非偶然性が免責条項とされているため、保険金請求者と保険会社のいずれが立証責任を負うのかが問題とされてきました。
A 平成13年4月20日判決−傷害保険    
  約款に基づき、保険者に対して災害割増特約に基づく災害死亡保険金の支払を請求する者は、発生した事故が偶発的な事故であることについて主張立証すべき責任を負うものと解するのが相当であるとしました。
  本件約款中の災害割増特約に基づく災害死亡保険金の支払事理は不慮の事故とされているのであるから、発生した事故が偶発的な事故であることが保険金請求権の成立要件であるとし、またそのように解さなければ、保険金請求の不正請求が容易となるおそれが増大することを理由としています。   
B 平成16年12月13日判決−火災保険
  商法が、火災によって生じた損害はその火災の原因いかんを問わず保険者がてん補する責任を負い、保険契約者又は被保険者の悪意又は重大な過失によって生じた損害は保険者がてん補する責任を負わない旨を定め(商法665条、641条)火災発生の偶然性いかんを問わず火災の発生によって損害が生じたことを火災保険金請求権の成立要件とするとともに、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって損害が生じたことを免責事由としたとして、保険金請求者は火災発生が偶然のものであることを主張立証すべき責任を負わないものとしました。
C 同18年6月1日判決−車両保険(水没事故)
  商法629条が損害保険契約の保険事故を『偶然ナル一定ノ事故』と規定したのは、損害保険契約は保険契約成立時においては発生するかどうか不確定な事故によって損害が生じた場合にその損害をてん補することを約束するものであり、保険契約成立時において保険事故が発生すること又は発生しないことが確定している場合には保険契約が成立しないことを明らかにしたものと解すべきこと、同法641条は保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害については、 保険者はこれをてん補する責任を有しない旨規定しているが、これは保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解されること、本件条項は『衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、こう水、高潮その他の偶然な事故』を保険事故として規定しているが、これは保険契約成立時に発生するかどうか不確定な事故をすべて保険事故とすることをわかりやすく例示して明らかにしたもので、商法629条にいう『偶然ナル一定ノ事故』を本件保険契約に即して規定したものであることから、本件条項にいう『偶然な事故』を商法の上記規定にいう『偶然なる』事故とは異なり、保険事故発生時において、事故が被保険者の意思に基づかないこと(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできないとしました。また原審が判示するように火災保険と車両保険で事故原因の立証の困難性が著しく異なるともいえないとしています。
  したがって、車両の水没が保険事故に該当するとして本件条項に基づいて車両保険金の支払いを請求する者は事故の発生が被保険者の意思に基づかないものであることを主張立証すべき責任を負わないというべきであるとしています。
D 同19年4月17日判決(車両保険−盗難事故)  
  「被保険自動車の盗難」という車両保険におけるその他の「偶然な事故」とは区別されて約款上規定されている事案において、車両保険における保険事故の偶然性は保険者が証明責任を負うとする平成18年6月1日判決を引用しつつ、同じ解釈が盗難事故にも妥当することを確認しました。
  そして保険金請求者は、保険事故である盗難を立証するために「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という外形的事実を主張立証すれば足り、被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張立証すべき責任を負わないとしています。
E 以上見てきたように、傷害保険に関する平成13年判決は、偶然性の立証責任は保険金請求者にあるとしましたが、その後の火災保険、車両保険の水没事故、盗難事故等は保険金請求者には偶然性の立証責任はないとしており、平成13年判決は「非常に浮いた存在」(山下友信東大教授・ジュリスト1368号p68)となりつつあり、判例変更の可能性は十分にあると考えられます。 なお以前の商法には傷害保険の規定はなかったのですが、新しい保険法は、傷害保険における故意を免責事由としており、保険会社に故意の立証責任を課したものと解されます。

(3) 『外来性』
@ 『外来性』についても、法律要件分類説によれば、保険事故の要件の1つであるが、 一方で、疾病起因性が免責事由とされていることから、請求者と保険者のいずれが立証責任を負うのかが問題となります。
A 平成19年7月6日判決(災害補償共済金)
  災害補償共済における外来の事故の要件と立証責任が問題となった件について次のように判示しました。
  すなわち本規約は、補償費の支払事由を、急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けたことを定めているが、ここにいう外来の事故とはその文言上被共済者の身体の外部からの作用による事故をいうと解されるとし、他方でこの規定とは別に補償の免責規定として、被共済者の疾病によって生じた傷害については補償費を支払わない旨の規定を置いている。このような本件規約の文言や構造に照らせば、請求者は外部からの作用による事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張立証すれば足り、被共済者の傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものでないことまで主張立証すべき責任を負うものではないというべきであるとしました。
B 同10月19日判決(人身傷害補償保険金)
  自動車保険の人身傷害補償特約(人身傷害補償保険)に関するものです。  
  本件特約が、傷害保険普通保険約款には存在する疾病免責条項をおいておらず、また本件特約によれば運行事故が被保険者の過失によって生じた場合であっても、その過失が故意に準じる極めて重大な過失でない限り、保険金が支払われるとされていることからすれば、運行事故が被保険者の疾病によって生じた場合であっても保険金を支払うこととしているものと解されるのであり、このような本件特約の文言や構造等に照らせば保険金請求者は運行事故と被保険者がその身体に被った傷害との間に相当因果関係があることを主張立証すれば足りるとしました。
C 最高裁は、外来性については、保険金請求者は外部からの作用による事故と被保険者の身体傷害との相当因果関係を立証すれば足り、傷害が疾病に起因しないことまで主張立証責任はないとし、さらに疾病免責条項が置かれていない人身傷害補償保険では自動車の運行事故の原因が疾病であったとしても、運行事故と被保険者の身体傷害との間に相当因果関係が認められない限り保険者は保険金支払義務を免れないとしたものと考えられます。
 3,近時、取り組んだ保険金請求事件
(1)傷害保険と偶然性−落下事故
 落下事故による死亡事故に関し、保険会社に対し、傷害保険金請求し、保険会社側が偶然の事故ではないとして支払い拒否している案件を担当しています。
傷害保険に関する平成13年4月20日最高裁判決は、偶然性の立証責任は保険金請求者にあるとしました。
 しかし、その後の火災保険、車両保険の水没事故、盗難事故等をめぐる最高裁判決は、保険金請求者には偶然性の立証責任はないとしており、山下友信東大教授は、平成13年判決は「非常に浮いた存在」となりつつあり(ジュリスト1368号p68)、「見直されてしかるべきである」(自由と正義Vol60p35)とされており、流れは、保険会社に立証責任を課することにより、契約者保護、消費者保護を図る方向に向かっているように思われます。

(2) 傷害保険と外来性−高齢者の風呂場での溺水事故
  高齢者の風呂場での溺水事故についてはコラムで何度か書いてきました。
  外来性については、死亡の直接原因と間接原因を区別し、保険金請求者は、直接原因である溺水の事実を主張立証すれば足りることは、この問題に取り組んだ当初から、主張してきたところであり、大阪高裁平成17年12月1日判決(判例時報1944p154)は、この主張をほぼ採用してくれました(保険金請求者は、直接原因である溺水の事実を主張立証すれば足り、間接原因については身体内部に原因するものでないことが明らかではないことを立証すれば足りる)。
 「平成19年度重要判例解説」(p120)で、山野嘉朗愛知学院大教授は、大阪高裁平成17年判決について、最高裁平成19年7月6日判決と同様な立場にある判例として紹介しています。

(3) 人身傷害補償保険、無保険車傷害保険−交通事故
 無保険車による交通事故で後遺障害が残った方の依頼で、人身傷害補償保険金及び無保険車傷害保険金請求事件(後遺障害等級事前認定請求、加害者に対する損害賠償請求訴訟、人身傷害補償保険金請求、無保険車傷害保険金請求)を担当しました。
 無保険車傷害保険は「賠償義務者が法律上負担すべきものと認められた損害賠償責任額」を担保するものとされており、逸失利益や慰謝料等の実損害の外に、裁判上認められる弁護士費用相当分や遅延損害金が含まれるかが争点になりました。
(内橋 一郎)
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