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 1,こんなケースを担当しました。
 (1)
 医療過誤事件については、弁護士登録した頃から多数の事件を担当してきました。
 医療過誤事件について訴訟となり判決をもらったケース、判決前に和解したケース、提訴にする前に示談で解決したケース、調停でまとまったケース、証拠保全を行ったが事件として立件するところまで至らなかったケース等を数えると、相当な数の事件を担当してきました。
 (2) 看護事故
 20才代の男性が、肺炎治療のために入院中、カニューレが外れて気道を閉塞したために呼吸困難となり、心電図モニターの心拍数アラームが鳴動していたにもかかわらず、看護師が適切なアラーム対応を怠ったために低酸素脳症に陥り、植物状態にとなって事故から約10か月後に死亡するに至ったケースで、看護体制やアラーム対応、既往症等による素因減額等が争点となりました。
 神戸地裁平成23年9月27日判決は、ナースステーション内に在室する看護師はアラームが鳴った時には直ちにモニターを確認し、病室を訪問して異常の原因を除去したり、医師に異常を伝える等の措置を採るべき義務があるが、病院はそれを怠ったとし、アラームに気がつかなかったとすればそれ自体が過失であるとして、病院の責任を認めました(医事法判例百選【82】−174、判タ1373−209掲載)
 病院は控訴し、私的鑑定書等を提出して争いましたが、控訴審(大阪高裁)においても、裁判所から、患者側の主張が容れられた和解案の提案があり、患者側として満足のいく和解が成立しました。
 (3) 脳外科
50才代の男性が、前交通動脈瘤が破裂して、搬送された私立病院で、クリッピング術を受けたのですが、不適切になされたため、左前大脳動脈閉塞を認め、翌日、クリップを掛け直しがなされたところ、出血性梗塞を発症し、その後死亡するに至ったケースで、初回クリッピング後の確認や再クリッピングの適否等が争点となりました。
 平成20年9月、神戸地裁で、病院(私立病院)が一定の損害賠償金を支払う勝訴的和解が成立しました。
 訴訟では、鑑定人を2名とする複数鑑定を希望し、採用されました。ところが、2名の鑑定人ともが、原告(患者)側主張に対しては消極的な意見でした。しかし、私的鑑定等により不利な鑑定を乗り越え、勝訴和解を勝ち取ることができました。 複数の公的鑑定を乗り越えての、勝訴和解は価値が高いと自負しております。
 (4) 脳外科
50才代の女性が、蝶形骨縁髄膜腫摘出手術の際、内頚動脈付近まで腫瘍を摘出しようとしたところ、内頚動脈を損傷し、患者に重篤な後遺障害が残ったケース。
 神戸地裁平成19年8月31日判決は、医師(国立大学教授)裁量の範囲を超えて操作すべきではない部位について操作を加えた等の過失が認められるとして、大学病院の責任を認めました(判時2015−104掲載)
 鑑定人は、どこまで摘出すべきかについては医師の裁量の範囲内としたのですが、神戸地裁判決は、摘出の必要性、摘出した場合の危険性と結果の重大性、他の代替手段等を総合的に勘案して、裁量を逸脱したとして、病院(国立大学病院)の責任を認めました。
 (5) 産婦人科
 30才代の女性が産婦人科(診療所)を受診し、妊娠8週目であると診断された4日後の夜、腹部痛を訴え、入院したが、入院した翌朝死亡するに至ったケース。死体解剖で、子宮外妊娠破裂による失血死と診断されました。
 平成19年7月、初診の際のエコーで、子宮外妊娠の診断が可能な症例であり、子宮外妊娠の見逃しがあったとして、訴訟外の和解(示談)が成立しました。
 (6) 新生児科
 新生児が出生した病院で、MRSAに感染し、化膿性関節炎により脚長差、膝関節の可動域制限等の後遺障害が残ったケース。
 神戸地裁平成19年6月1日判決は、医師には患者がMRSAに感染したことについて、感染を予見し、かつMRSAに対して有効なバンコマイシンを投与すべき注意義務を怠った過失があるとして、病院(国立病院)の責任を認めました(判時1998−77掲載)。   
 (7) 外科
 20才代の女性が、病院(私立病院)で、局所麻酔下によるリンパ節摘出術を施行した際、副神経を損傷し、左副神経麻痺等の後遺障害を残したケース。
  平成18年7月、相手方病院が責任を認めて、一定の損害賠償金を支払うと共に謝罪する訴訟外の和解(示談)が成立。
 (8)整形外科
 60才代の女性が作業中転倒し、左下腿骨折と診断され、手術。その後、相手方病院(私立病院)で、保存的治療が施行されたが、下腿痛・運動制限が改善せず、リハビリを受けるも、左下腿の筋肉低下で立位不可の後遺障害を残したケース。
 平成18年5月、RSD(反射性交感神経ジストロフィー)を早期に疑い治療を開始すべきところ、RSDを見逃し、早期の治療を行わなかったとして、相手方病院が一定の損害賠償金を支払う訴訟外の和解(示談)が成立しました。
 (9) 整形外科
 60才代の女性が背中の痛みを覚え、相手方病院(私立病院)に入院したが、患者の胸椎病変に対する原因検索が不十分なため、化膿性脊椎炎の診断が遅れ、対応が遅れたことより、両下肢機能全廃の後遺障害が残ったケース。
 平成16年6月、相手方病院が一定の損害賠償金を支払う訴訟外の和解(示談)が成立。
 (10) 消化器外科
 大腸癌を発見され、私立病院にて、年明けに手術予定であった60才代の男性が腹部痛を訴え、その病院を受診したのですが、午前5時及び9時の受診では、投薬のみでX線検査もしないまま様子を見ていました。しかし、11時過ぎにX線検査をしたところ、フリーエアを認め、ようやく穿孔性腹膜炎と診断されます。開腹手術が行われたのですが、術直後より、敗血症ショックとなり、死亡するに至ったケース。
 早期に穿孔性腹膜炎の診断が可能であり、治療を早期に開始していれば救命し得たかどうかが争点でしたが、鑑定は、診断は可能であったとしたものの、死因は誤嚥であったとの意外な結果になりました。補充鑑定を申し立て、文献等で根拠を示し、鑑定人に再度意見を求めたところ、修正意見を引き出すことができました。
 平成16年5月、相手方病院が一定の損害賠償金を支払う勝訴和解が成立するところになりました。
 (11) 眼科
 2才の女児が左目を強打し、相手方病院(私立病院)を受診したが、診察した麻酔医は、左下眼瞼打撲と診断し、洗浄、消毒、軟膏塗布のみで帰宅させ、検眼、治療はしなかった。翌日再度受診した際は、眼科医が診察し、眼底検査及び超音波エコー検査を実施し、翌日での大学病院受診を指示。受傷3日目に大学病院を受診したが、高度な視力障害が残ったケース。
 神戸地裁平成14年8月27日判決は、受傷初日に眼科を呼ぶか、転医の手続を取るべきであり、2日目においてもRAPD検査を実施すべきであった。そうすれば外傷性視神経障害を強く疑うことが可能であり、ステロイド大量療法を実施していれば改善しえたとして、病院の責任を認めました。
 鑑定では、直ちに眼科的治療を施行していても視力は回復できなかったとされたのですが、医学文献や私的鑑定書を提出し、不利益鑑定を乗り越えることができました。
 (12) 内科
 20才代の男性が発熱し体調不調を訴え、相手方医院(診療所)を夜間、受診し、確定診断を得られず、検査のため入院。入院3日の早朝から状態が急変し、午前4時には意識混濁状態となり、午前7時に死亡するところとなった。急変した時点で転送していれば救命できたかどうかが重要な争点となりました。
 元大学教授であった鑑定人は、転送しても改善は望めず、むしろ死期を早めるだけであるとしたのですが、鑑定人に対する尋問を実施し、尋問結果を踏まえて、鑑定の問題点を指摘したところ、再鑑定の申請が採用されました。再鑑定では、午前4時の時点で転送すべきであり、救命できた可能性がある(大きい)とされ、その再鑑定結果を前提として、勝訴和解が成立しました。
 (13) 脳神経外科
 経口抗凝固薬の処方にあたり、その添付文書の血液凝固能検査をしなかったことにつき医師の過失を認め、かつ患者の死亡との間に相当因果関係があるとしたケース。
添付文書の記載に違反して凝固能検査をしなかったことにつき医師の過失は明白ですが、過失と死亡との相当因果関係は画像上、右脳内出血とくも膜下出血の所見があり、そのいずれが優位であると画像上言いきれないことから、その証明は容易ではなく、誰が担当しても勝訴できたという事案ではなく、相当困難な事案の1つだったと思います。しかし、因果関係の立証に関する最判昭和50年10月24日の援用、医学文献収集、協力医との検討等の努力したところ、裁判所は、相当因果関係を認めました(判時2268−83掲載)
 (14)産婦人科
 無痛分娩・計画分娩のために入院したが、当初分娩誘発のために使用した陣痛促進剤が過量であること、14時10分の時点で変動性一過性徐脈が認められ、その開始から元に戻るのに1分以上かかっており、危機的レベル3の過強陣痛となっているのに適切な措置(酸素吸入、収縮抑制剤投与、体位返還)をとっていないこと、14時50分の時点で胎児心拍数基線変動微弱を認めているにもかかわらず、陣痛促進剤を増量していること、14時55分〜15時、変動性一過性徐脈が続き、遷延性一過性徐脈と評価され、危機的レベル5に該当し、帝王切開をとらなかったこと等のため、子宮裂傷、頸管裂傷、産道裂傷が生じ(胎児は17時過ぎに出産)、高次医療機関に転院して治療を受けたが、低酸素脳症となり、死亡するに至ったケース。証拠保全後、示談交渉にて、勝訴的和解(示談)。
 (15)         
 脳神経外科での手術ミスと考えられるケース(示談)、血管内手術のミスと考えられるケース(示談)、単純ヘルペス脳炎が疑われるケースでの検査・診断・治 療ないし転送義務が争点とされたケース(控訴審で和解)、全身性エリテマトーデ ス、抗リン脂質症候群に対する治療が争点とされたケースの外、多数の相談、証拠保全等の経験があります。
 
 2,医療過誤事件の進め方
以下では、医療過誤事件の、相談から訴訟までの、流れについて説明します。
 (1) 相談
@電話予約
 まず電話で予約を入れて頂きます。その際、何点か弁護士の側からお尋ねすることがあります。お電話を頂いた方と患者さんとの関係、医療機関がどこか、診療科目は何で、どんな治療行為を問題であるとお考えであるのか、結果はどうなったのか、時期はいつかなどです。お話しをうかがって来所して頂くかどうかをお話しします。

A事前準備
 相談日の前に、事実の経緯、何が問題であると考えられているか等を簡単にまとめたペーパーを送付して頂くことが多いです。相談日に事実経緯等のお話しをうかがうだけで、かなりの時間がかかります。まとめられたものを相談日に渡され、相談者の方の前で読むのも同様に時間がかかります。また事前に目を通しておけば、問題となる疾患等について簡単な下調べもできます。やはり事前に、まとめて頂いたペーパーをお送り頂く方がいいと思います。
診断書等の医療記録の写しを送って頂くこともあります。なお相談日には関係しそうな資料は全部持ってきて頂くのがよいと思います。

B相談
 相談日には、事前に頂いている資料等に基づきながら、お話しをうかがって、医療過誤の可能性について、検討していきます。
 お話しをうかがった段階で判断できることは、医療過誤と考えることができるかどうかを検討する前提の、調査をお引き受けるかできるかどうかです。医療記録も入手しておらず、協力医の意見も聞いていない段階で、ミスがあったかどうか、裁判で勝てるかどうかの見通しをつけることは難しいと思います。
 お話しをうかがって、医療過誤の可能性が低いと思われる場合には、その旨をお話しして相談のみで終わるケースもあります。
 (2)調査、証拠保全、協力医相談
@調査には、大きく分けて、事実的な調査と医学的な調査があります。

A事実調査は、カルテなどの医療記録を入手し、分析する作業になります。
 カルテ等の医療記録を入手するには、カルテ開示の手続によることもありますが、改竄のおそれを考えるならば、証拠保全の手続によることが多い(原則)と思います。
 証拠保全とは、カルテ類の改竄を防止するために、裁判を起こす前に、裁判所の命令に基づき、カルテ類を保全する手続をいいます。
入手したカルテ類を分析し、医療行為の適否等について検討します。

B医学調査としては、まず医学文献を収集し調査します。

Cカルテ類を分析し、問題点を抽出し、医学文献に照らして検討した上で、弁護士なりの、見通しをつけますが、弁護士は臨床医ではなく、医療については素人ですから、多くのケースでは、第三者的な立場で意見を言ってくれる協力医に相談することになります。
 (3)訴訟前交渉
 調査の結果、病院側に過失があり、有責であると考えた場合、いきなり訴訟するのではなく、示談交渉(訴訟前交渉)をする例が多いように思います。
 示談交渉のみで病院側が責任を認めて、損害賠償に応じるケースもあれば、決裂して訴訟になるケースもあります。
 (4)訴訟
@提訴にあたって、原告側(患者側)は、訴状すなわち事実経緯、過失、損害、因果関係に関する自らの主張を記載した書面とそれを立証する証拠を提出します。これに対して被告は答弁書・準備書面で、原告側の主張に対する認否・反論をし、さらに原告側から準備書面で再反論し、攻撃防御が繰り返されることになります。

A従前、訴訟、とりわけ、医療訴訟は時間がかかるとされてきましたが、近時は審理期間の短縮のための努力がなされています。
 争点整理手続は、まさに争点を絞り込むための手続です。
 ここでは、被告(病院側)が医療記録を証拠として提出し、診療経過一覧表を作成します。原告(患者側)も証拠を提出し、診療経過一覧表に対する認否や原告としての事実の主張をします。そうやって、争点を絞り込んでいきます。 証人尋問についても、集中証拠調べ手続が行われ、原則として1日で証拠調べを終了します。

B鑑定
 医療訴訟は、優れて専門的な事項を判断するものですので、鑑定といって、裁判所が選任した専門家(医師、大学教授であることが多い)から、意見を聞くことがあります。
 従前は、この鑑定に時間がかかるとされてきたのですが、神戸地裁では鑑定人ネットワークが発足し、迅速に鑑定人が選任される体制が取られ、また鑑定書の提出も早くなっているようです。
訴訟の帰趨は、鑑定人がどのような判断をするかに関わる要素が大きく、訴訟において、きわめて重要な局面と言えます。
 問題は、公平で公正な鑑定が、かならずしも、なされるとは限らない点です。
 そして、不利益な鑑定がなされた場合、患者側それをどうやって乗り越えていけるかが勝負の分かれ目になります。

C判決、和解
 最最終的に、裁判所が判決という形で判断を示します。
しかし、判決前に、裁判所から和解案が示され、判決ではなく、和解という形で解決することも少なくありません。
 和解には、ほぼ勝訴といってもいい内容の、勝訴的な和解と、そうではない敗訴的な和解があります。

※なお、上記は現在の私のやり方をまとめたものですが、文書作成にあたっては、医療事故情報センター「相談から訴訟まで基礎編」を参照しました。
( 内 橋 一 郎 )
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