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 1,証券取引被害とその救済の可能性について
 (1)証券取引被害と救済の可能性
 「投資家の自己責任」ということがしばしば言われます。自分の判断で証券取引を行って損失を被ったとしてもその結果は自分で甘受しなければならないという証券取引の大原則です。では証券取引で損害を被ったとしても、自己責任原則から損害回復はできないのでしょうか。
 しかし、実際の取引は証券会社の勧誘や助言に基づいて行われることが多く、投資家は証券会社の勧誘・助言に強い影響を受けるのが実情ですので、証券会社の勧誘が証券取引法上の投資家保護規定や民法の信義則に違反する「不当な勧誘」である場合は「損害賠償」も可能になります。
 この場合の損害賠償は自己責任原則に反しません。
 (2)2つの違法類型−『説明義務違反』型と『過当取引』型
 では、どのような場合に損害賠償が認められるのでしょうか。
証券取引に関して損害賠償が認められた民事判例をラフに分類すれば、「説明義務違反」型と「過当取引」型の2つの違法類型に分けられるように思えます。

ここに「説明義務違反」型とは投資勧誘行為が「適合性原則」ないし「説明義務」に違反するとされた類型を想定しています。
すなわち「適合性原則」とは、証券会社は投資家の知識・経験、財産状態に照らして不適当と認められる勧誘をしてはならないとする原則です。また「説明義務」とは、証券会社が高い専門的知識を有するのに対し、一般投資家にはそのような知識がないことから、仕組みが複雑でハイリスクの金融商品を勧誘するにあたっては、その仕組みやリスクを投資家が理解できるように説明する義務が信義則上課されるとするものです。
「ワラント」、「オプション」、「EB債」等をめぐる裁判例では主として、適合性原則違反と説明義務違反が問題となりました。

これに対し、「過当取引」(型)は、証券会社が顧客の取引口座に支配を及ぼし、顧客の信頼を濫用して、顧客の資産・経験・知識・口座の性格に照らして過当な取引を行うことであり、顧客に対する「誠実公正義務」に違反する詐欺的・背任的行為をいいます。「説明義務違反」型不法行為が1回の勧誘行為の適否を問題にするに対し、「過当取引」型不法行為では一連の取引における証券会社の誠実公正義務違反が問題になります。
たとえば、株式の「信用取引」で、短期で頻繁な売買を繰り返すと、多額の手数料がかかり、また価格の騰落により、莫大な損害を被ることがありますが、そのような頻繁売買では「過当取引」が問題になります。
 (3)過失相殺
 証券取引をめぐる民事裁判で証券会社の勧誘が違法であると判断されても、必ずしも被った損害全部の賠償が認められるわけではなく、投資家側にも落ち度があったとして賠償額が減額されることがあります。
 これを「過失相殺」といいますが、どのような要素に基づき、どの程度、減額するかについては裁判官の裁量の範囲が広く、同種事件でも過失相殺の割合が異なることがあるのが現状です。
 2,具体例として
 (1)会社経営者・ベテラン投資家と過当取引
1. 過当取引が違法とされるためには(ア)口座支配性、(イ)過当性、(ウ)悪意性の3要件を顧客が立証しなければなりません。3要件のうち、裁判で最も問題になるのが「口座支配性の要件」で、原告が会社経営者やベテラン投資家等知識・経験があると見られる場合には「口座支配」があるかどうかが殊に争われます。
 この点に関して、「会社経営者」及び「ベテラン投資家」に対する過当取引事案につき、大阪高裁で平成16年10月及び11月に、投資家勝訴判決がありましたので、その概略を説明します。
2. 平成16年10月判決
 15年間、証券取引の経験のある、「会社経営者」が平成11年6月から翌12年3月迄の10ヶ月に855回の信用取引を行い、約1億数千万円の損害を被ったというケースです。これらの取引は手数料獲得のために証券会社が主導したもので、顧客には過当な取引であったとして、損害賠償を求めたものです。証券会社側は顧客の納得ずくの取引であったとしてこれを争いました。
 一審の大阪地裁は敗訴でしたが、二審の大阪高裁は、本件の投資家は会社経営者であるが、株式等に対する情報収集・分析能力はほとんどない上、本件のような回転売買では投資家が自発的・自主的な投資判断に基づき、取引を行うことは不可能であったとして、口座支配性を認め、投資家に逆転勝訴判決を言い渡しました(ただし投資家にも落ち度があるとして、7割の過失相殺がなされています)。
 この事件は朝日新聞のコラム(平成16年12月17日夕刊「窓」〜証券会社の体質)にもその概要が取り上げられましたが、被告証券会社はその後、この敗訴を受け、制度を見直し、過当取引防止策として取引残高報告書に手数料累計、売買の結果生じた損益状況、現時点の評価額を記載することを決めました(平成17年1月14日朝日新聞)。
3. 11月判決
 「株が趣味」と自負する「ベテラン投資家」が、長く付き合いのある証券外務員から誘われ、平成11年12月から翌12年8月迄の約7ヶ月間に113回の信用取引を行い、7千数百万円の損害を被ったというケースです。
 こちらのケースは一審(神戸地裁)が投資家勝訴(過失相殺7割)で、証券会社が控訴したのですが、控訴審でも一審の判断が基本的には維持されました(ただし、過失相殺8割)。
 大阪高裁は、本件のような異常な回転売買からして、本件の投資家が自主的に適正な投資判断をし、取引を行うことは、本件投資家の株式経験を考慮してもおよそ不可能であるとしています。
4. 過当取引が違法とされるためには口座支配性、取引の過当性、悪意性の3つの要件を投資家側で立証しなければならず、殊に「口座支配」性の要件の立証は容易ではないのですが、上記の2つの判例は、会社経営者やベテラン投資家でも、口座支配される場合があることを認めました。
 反面、それだけ知識・経験のある人たちなので、投資家側の落ち度も大きいと判断され、大幅な過失相殺が適用されています。しかし、そもそも過当取引が証券会社の誠実公正義務に違反する詐欺的・背任的行為であることからすれば、投資家側の落ち度をこのように過大に扱うのはバランスを欠くと考えます。過失相殺は裁判官の価値観などに影響される部分も大きく、この2つの判決を担当した裁判官は厳しく過失相殺をとるタイプに属すると思われるのですが、このような大幅な過失相殺をどうやって克服していくかは今後の課題です。
 (2)高齢者と外国投信・外国株式
1. 「外国投信」は、外国の投資運用会社が設定・運用する投資信託であって、投資対象は通常、外国企業であり、国内の新聞等に投資信託自体の情報や投資対象の企業情報が掲載されないため、投資情報を入手することは一般投資家にはきわめて難しい。
 また「外国株式」は外国の会社が発行する株式で、ニューヨーク市場やロンドン市場の主要銘柄、ナスダックの上位銘柄の株価は日経新聞に掲載されるものの、掲載されない銘柄も多く、また当該企業の市況や財務内容は新聞等ではわかりません。
 そのような外国投信や外国株式を高齢者に売り付けるのは適合性原則から見て疑問があり、仮に販売自体が許されるとしても顧客が理解できるよう十分に説明する義務があると考えられます。
2. 証券会社がある外国投信を70才代の女性に販売したところ、1年あまりで10分の1以下に下落し、4000万円以上の損害を被ったというケースがあり、適合性原則違反、説明義務違反を理由に提訴しました。
 これに対して証券会社は、女性が資産家で証券取引の経験も長く、知識・経験・財産状態に照らしても適合性はあり、また勧誘の際、十分な説明をしたとして争いましたが、裁判所は高齢者であることを重視し、和解を勧告し、損害の約4割を支払うことで和解が成立しました。
3. 平成12年12月頃、70才代の会社経営者に対し、ある外国株式を約3000万円で売り付けたところ、翌13年9月には当該外国企業が破産し、株式が紙くずになったというケースでは、やはり適合性原則違反、説明義務違反、殊に当該企業がかなりの累積赤字を計上していたことを説明していない点が違法であるとして、損害賠償請求の裁判を神戸地裁に起こしました。
 70才代で会社の仕事の実質的な部分は息子さんたちに委ねられているとはいえ、長年会社経営に関わってきた原告が、累積赤字の事実を知りながら、そのような財務内容の悪い企業の株式を購入するとは考えられません。しかし、裁判所は赤字のことを説明したという外務員の証言を採用し、投資家敗訴の判決を下しました。
 原告の方が裁判は一審限りとされたことから、この判決は一審で確定することになりました。
以上
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