1.注射により黄色ブドウ球菌に感染させ、死亡させたことにつき、医師の注意義務違反を否定した事例(長崎地裁佐世保支部H27年4月27日判決=判時2293-101) @ 甲はA医療センターにて変形性右膝関節炎の治療で右膝関節にヒアルロン酸注射を受けていたが、ある年の6月16日、B医師から右膝にヒアルロン酸注射を受けてたが、その注射で、黄色ブドウ球菌に感染した。甲はその後病態悪化し、右下肢全体が膨張し、同月21日、死亡した。直接死因は多発性胃潰瘍による出血性ショックであった。 訴訟では、B医師が本件注射をした際、滅菌用手袋を着用することなく、本件注射をしたことが過失である等が争点となった。 A 判決は、本件注射液の添付文書の用法・用量欄に、「本剤は関節内に投与するので厳重な無菌的操作で行うこと」、使用方法欄に「投与に先立ち、注射部位を厳重に消毒して下さい」とある一方、手袋を着用して注射を行わなければならないとの記載はなく、関節穿刺に関する文献には「触診をしながら穿刺する必要がある場合は触診する術者の指も注射部位と同様に消毒するか、もしくは滅菌ゴム手袋を使用する旨の記載がある。 Bの添付文書及び文献からすると、ヒアルロン酸注射を行うにあたり、滅菌手袋を着用する義務があったとは認められず、B医師が穿刺部位及び触診する自らの指を消毒し、触診したうえで注射したことにつき、過失があったとは言えない旨等を判示し、患者側の請求を棄却した。
2.糖尿病足病変による患者の左第4趾切除手術の措置等について医師に過失を否定し、損害賠償責任を否定した事例(大阪高裁H25年3月14日判決=判時2293-51) @ 甲は乙の経営する病院に通院し、糖尿病の治療を受けると共にある年の3月16日、糖尿足病変による左第4趾切除術を受けたが、その後、糖尿病足病変が悪化し、転送先で左大腿切除手術を受けたものの、重篤な後遺障害を残した。 A 裁判所は、控訴人は糖尿病病変を起こしている部分からかなり離して健常部分を切断する場合が多く、本件左第4趾切断術においては、同切除の翌日には、左第4趾周辺に発赤が認められ、同部分が拡大していったのであるから、壊死部位や感染部位の判断を誤ったものであると主張するとしたうえで、 B しかし、糖尿病変としての足部に壊死部分が存在する場合の外科的措置の範囲については、壊死部分と感染部分を十分切除するという方法と、感染の温床となる壊死部分を速やかに除去するという方法が存在し、前者が医療水準として確立されているとは認められない等として、控訴人の主張は採用できないとした。
以上
弁護士内橋一郎
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