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2018.11.6 コラム一覧に戻る
指導助言義務についてA
弁護士 弁護士 内橋 一郎

1.  大阪高裁平成20年8月27日判決(判例時報2051号61頁)
大阪高裁H20年8月27日判決のケースについてお話しします。
商品先物取引ではなく株式の信用取引のケースに関するものですが、先物事件と共通する部分は多いと思います。
一審は本人訴訟で敗訴し、控訴審をぼくが担当しました。
顧客は、輸入業等を営む50歳代の男性で、金融資産が1〜2億円、全部で7社との証券取引の経験があり、本件の信用取引の1カ月半前から他社で信用取引を開始しておりました。大阪高裁は、「利益獲得志向が極めて強い」としていますが、このような経験豊かで、利益獲得志向が強い投資家が、リスクコントロールが困難になっていく状況とは、どういう状況かについてお話しします。
2.  情報処理困難性
(1)  経緯
8月に信用取引の口座を開設し、9月の投資残高は3000万円ですが、当時はITバブルで、そういった株式を売り買いすれば儲かっていた時期です。そういう状況ですから、取引規模は拡大し行き、10月は8000万円、11月は1億1000万円、12月には1億6000万円と大きくなり、取引態様も短期、頻回、大量の取引になっていきます。かなり取引に熱心な方で、取引に関与することも少なからずあったのですが、儲かっていたので、徐々に緩くなっていったと思われます。
年明けの大発会の後には支店長に対し「担当者のA君が非常にいい、こんな担当者は他にはいない」等褒め千切っています(担当者に対する信認の程度が大きくなっていったことを示す1つのエビデンスであると思われます)。1月の残高は、1億8000万円、2月には2億8000万円にまで膨れ上がっていきました。
取引は、より短期、より頻回、より大量の取引になっていきます。
3月初旬、欧州出張中にITバブルが崩壊し、かなりの値洗い損が発生します。担当者は損切りを勧めたが拒み、相場の回復を待ち様子見となりました。3月の投資残高は2月とそう変わらず2億7000万円ありました。
4月以降は価格がドンドンと下がります。建玉を維持できず、後は信用建玉の終息に向けた敗戦処理で、8月に信用取引が終了し、最終的な損害は7900万円にも及びました。
(2)  情報処理困難性
@  顧客は、経験豊かで、利益獲得志向が強く、取引に積極的に関与していたのですが、あまりの短期、頻回、大量の取引に、どういう取引をしているのか自身では分かりなくなっていったのだと思います。 実質的な取引期間7カ月で41銘柄、取引回数は現物取引を含めて400数十回、30日以内に取引が60%以上を占め、売買回転率は11回です。
判決は、「取引内容や数量から、投資経験を考慮しても、情報処理や自主的かつ的確な投資判断ができる限界を超えている」としました。 
リスクコントロール困難性を考える1つ目のポイントは、情報処理困難性の点にあると思います。
3.  不合理取引
(1)  情報処理困難性、判断従属性、裁量性
『先物取引と過失相殺』(共著、民事法研究会)の中で、情報処理困難になると判断を担当者に従属せざるを得なくなり、担当者の実質的な裁量性が広がっていくということを書きました。
本判決も、「知識経験を有する控訴人であっても、情報処理や投資判断については信用取引のプロといえる担当者とは比べるべくもない」とし、「(本件のような)大量かつ頻繁な取引では、担当者の指示や助言なしに、投資判断することは極めて困難」として、事実上の一任売買が行われたとしています。
(2)  不合理取引−両建て 
本件の担当者も、経験豊かで利益獲得志向が強く取引に積極的に関与する顧客であったので、最初は慎重な対応をしていたのでしょうが、徐々に緩くなり、実質的な裁量が広くなっていくと、手数料稼ぎ的な不合理取引を始めるようになります。
本件での、分かりやすい例が両建てです。
 株式の現物を持っている場合でも、値下がりが予測される場合にはリスクヘッジで信用の売建てをすることがあります。つなぎ売りと言います。形式面だけをみると両建ての形にはなりますが、これは両建てとはいえません。
 しかし、本件では現物株式+信用売りだけでなく、そこに信用の買いが加わったりすることがありました。また現物が処分され、信用の買いと信用の売り同士になることもありました。そこにさらに信用の買い、あるいは売りが加わり、買い越し、売り越しの状況になることもありました。これらの取引を担当者は「くくり取引」と称して両建てではないとしておりましたが、控訴審での尋問での問答を繰り返す中で、高裁の裁判官にも、両建てにほかならないことが分かっていきました。
 両建ては、数はそう多いわけでもなく、また大きな損害を出したというものでもないですが、裁判官にも不合理取引の例として、分かりやすい例であったと思います。
(3)  不合理取引は、権限濫用的行為ですので、顧客のリスクコントロールが届かない状況であると思います。
これが2つ目のポイントです。
4.  保証金維持率
(1)  保証金維持率
信用取引は、証拠金を積み、残りは証券会社からお金を借りて行う取引で、最大で証拠金の約3倍迄の建玉が可能になります。レバリッジは3倍ということになります。証拠金の約3倍迄の建玉が可能ということは、建玉総額の30%以上の証拠金が新規建玉には必要ということと同義です。保証金維持率が最低30%以上必要ということとレバリッジが最大3倍ということと裏表の関係にあります。
保証金の率が20%を切ると追証がかかります。保証金と建玉の比率について、本件の担当者は60%が理想形であるとしています。保証金維持率は建玉に占める証拠金の割合ですが、厳密にいうと、証拠金額から値洗い損と手数料を控除したものを基礎として計算します。
(2)  本件
本件は、ITバブル期であり、控訴人の利益獲得志向もあり、利益を証拠金に振替て、建玉総額がどんどんと大きくなっていきます。まさに先物でいう利乗せ満玉の状態です。9月の投資残高3000万円が10月8000万円、11月1億1000万円と拡大し、12月には1億6000万円になっていました。9月の約5倍です。
12月頃から保証金維持率30%を割る事態が発生していました。新規建玉時は30%以上なければならないので、その時点ではぎりぎり30%あったのでしょうが、終値ベースだと20%台に落ち込むことがしばしば発生していました。本来30%以上でなければならないところ、終値ベースであれ20%台ということは、比ゆ的に言えば危険水域に達している状態と言い換えることができると思います。レバリッジ最大3倍の制度信用保証で、4倍近い建玉になっていることは、不健全であり危険性が高まっている状態で、リスクコントロールが困難になりつつある状態であると考えられます。
そういう状況では、取引を勧誘し手数料を得ている証券会社、信用取引のプロである証券会社、顧客の信認のもと実質的に広い裁量を有する証券会社には、このきょうな危険性が高まっている局面では、プルーデント・マン(インベスター)・ルール(思慮深い投資家の原則)的な配慮、慎重さが求められると思います。ここでは、顧客の利益をいちばんに考えて、建玉内容の改善、是正(取引規模の縮小)を求める助言が求められたと考えます。
ところが、年が明けての1から2月にかけても、取引は縮小されず、むしろ大きく拡大され、2月の投資残高は2億8000万円になっています。そして3月初めのITバブルの崩壊で、大きな損が発生しました。担当者は、12月1日に保証金維持率が26・5%に下がった時に建玉の改善を申し出たとしていますが、実際には12月3日にはドコモ株を推奨して購入させています。
(3)  判決
判決は、本件の大きな損害発生は、ITバブル崩壊、顧客の利益獲得志向、損失発生後、損切りを嫌ったことによるところもあるが、それだけではなく、12月に保証金維持率が30%を割って以降、2月にかけての取引拡大が影響しているとし、(保証金維持率が30%を割って以降、取引を縮小せず拡大した)担当者の対応は、「顧客の損失を拡大させるおそれのあるもの」であり、証券会社の指導助言義務に反するとしました。
保証金維持率30%という指標を用いて、リスクコントロール困難性を考えたものと理解できます。
5.  まとめ
 リスクコントロールができなくなる状況として、短期、頻回、大量取引による情報処理困難性、不合理建玉、保証金維持率の低下があるというお話を致しました。

以上

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