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医療過誤訴訟勉強帳C 〜統合失調症患者の自殺と医療機関の責任(最判H31年3月12日)
弁護士 内橋 一郎

医療過誤訴訟勉強帳C
〜統合失調症患者の自殺と医療機関の責任(最判H31年3月12日)

1.  統合失調症で精神科クリニックを受診していた患者が、中国の実家に帰省中に自殺したことについて、患者の自殺を防止するために必要な措置を講ずべき義務違反があるとして、その家族が医師に損害賠償請求を求めた事案。

2.  事実の概要
患者は当該医師のクリニックに長年通院していたがH22年8月、自殺企図が切迫している状態にあるとして大学病院に医療保護入院となった。入院中、リストカットに及んだこともあったが次第に幻聴も減り希死念慮もなくなり10月、大学病院を退院した。その後、元の精神科クリニックにつき1回通院していたが、幻聴等も減り、H23年3月精神科クリニックで診察を受けた翌日から中国の実家に帰省した。その際、医師は環境の変化があるので帰省後1か月は抗精神病薬の服薬量を維持することを指示し、その後は経過をみて減量する方針とした。患者は中国に実家に帰省し、4月以降、服薬量を漸次減量したが、自宅マンションから飛び降りたい衝動があると述べるようになり、5月23日から幻聴が悪化し希死念慮が現れるようになった。28日、家族は医師に対し、ここ数日幻聴が激しくなり、希死念慮が強く出ていて「これからは3人で生きて下さい」との言葉もあった、危険なので義母に監視を頼み、セレネースを11mgに戻すように言った、減薬の先に何があるのか見通しを示して下さい等と記載した電子メールを送信した。医師は30日頃に電子メールを読み、「困難な場合は入院で薬の調整をして頂くことを考える必要もあるかもしれません」とのメールを返信した。6月8日、患者は幻聴を訴え、10日、実家マンションから飛び降りて自殺した。

3.  最高裁判決
原審(東京高判H29年9月28日)は、遅くとも電子メールを読みその内容を知った時点で患者の自殺の具体的危険性を認識したのであるから、自殺を防止するために必要な措置を講ずべき義務を怠ったとして損害賠償責任を認めた。
 これに対し、最高裁H31年3月12日判決(判時2427&#821211)は、患者は自傷行為に及んだこともあるが大学病院退院後は抗精神病薬の服薬量を漸次減量していたこと、中国の実家に帰省中、希死念慮を表明したことはあるが自殺を図るための具体的行動に及んだことはうかがわれないこと、希死念慮が強く出ているとの電子メールを読んだものの、患者の具体的行動としては「これからは3人で生きて下さい」と発言した旨が伝えられたにすぎないことから、電子メールの内容を認識したことをもって自殺を具体的に予見することができたとはいえないとした。

4.  備忘録メモ
(1)  自殺防止義務について、精神科患者にはその他の患者よりも自殺が多くみられることから、これらの患者の入院管理を行う医療機関には、患者に対して病状に応じた治療を実施するほか、自殺を防止すべき一般的抽象的な自殺防止義務を負うものの、自殺により具体的責任が発生するには、具体的な自殺の危険性が存在し、そのような危険を認識することができ、かつ結果を回避する可能性があることが必要である。その理由は、一般的抽象的な危険の予見だけで患者が自殺に及んだ場合に医療機関側に過失があるとすれば、いかなる場合にも厳重な看護・監督下に置き、自殺防止措置を採ることは、治療の目的に反し、患者の人権保障にも反するからだとされる。
 そして、自殺の予見可能性を判断するためのファクターとしては、自殺念慮の表明、近時の自殺企図歴、病状の時期(急性期、回復期)、病識の有無・程度、治療への態度等が考えられるとされている(以上、医事法判例百選第2版p213左頁)。
(2)  東京高裁は、電子メールの内容から、具体的な危険性を認識したとしたが、最高裁は、強い希死念慮を示す事実としては「これからは3人で生きて下さい」と発言した旨の伝聞しかないとして、自殺を具体的に予見することができたとはいえないとした。
 本件の電子メールの内容は、事案の概要のとおり、かなり具体的な状態悪化と自殺の可能性を示す(示唆する)もののように思えるが、それでも最高裁が、自殺の具体的危険性の認識可能性を否定したのには、入院例ではなく通院例であり、しかも患者が中国に帰省中で自ら診察できない状況にあったことを考慮した結果からなのだろうか。
                              

以上

みのり法律事務所
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