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2006.02.20 コラム一覧に戻る
先物取引被害・その傾向と対策
1, 商品先物取引とは、ごく単純化していえば、「先」の「物」の「取引」ということができると思います。つまり「先」すなわち、6ヶ月後といったように、「将来」の一定時期に、「物」すなわち「商品」の受渡をすることと条件に売買する取引です。この先物取引にあっては、受渡期限が来る前に、転売あるいは買い戻しをすれば、商品の受け渡しをせずに、代金の決済だけを受け渡しをすれば取引を終了させることができるので、マネーゲームの要素が強くなってきます。
  先物取引の歴史は古く、我が国の場合、1700年代に、堂島の米相場を大岡越前守が認めたということがいわれています。
  先物取引は、もともと、現物を持つ業者のリスクヘッジが目的ですから、当業者が中心で、市場への参加者はプロ、セミプロが占めていたのですが、1960年代頃から、貯蓄が増え、余裕資金を持つ人たちに狙いをつけて業者が勧誘するようになったようです。いわばプロ市場にアマ(素人)を引っ張り込んだのが現在の先物取引市場のようです。

2, 商品先物取引についてはよくハイリスク・ハイリターンと言われますが、私は一般の方にとっては「ハイリスク・ノーリターン」ではないかと考えています。
  その理由は@仕組みが複雑、「ガイド」を読んでもよく分からない、A証拠金取引で、実際に行っている取引は、出している証拠金の10倍から30倍(金でいれば20数倍)の取引、少しの値動きでも大きな損失が出る、B受渡時期が将来で、また商品の産地が外国で、天候(エルニーニョ)とか労働者スト(白金、南アフリカ)など相場要因が複雑多岐で、素人には情報収集できず、分析も無理なので、結局は業者の言いなりになる、C1日の間でも、値動き自体が激しく、1日の内でも乱高下する、D手数料が高く、取引を続けていると取引自体は仮にトントンでもマイナスになる、E手数料稼ぎ目的の無意味な反復売買(直し、途転、両建て、日計、不抜け)が多数存在する、F農水省・通産省平成9年の「委託者保護に関する中間とりまとめ」によれば8割が損を出していることなどです。

3, 加えて、業者の不当勧誘の手口には本当にひどいものがあります。私が取り組んだケースから2つばかり、典型的な例を紹介します。
(1)最初は、70才後半の奥さんと80才代のご主人のご夫婦が被害者のケースです。
   おばあちゃんが、ペイオフ導入で、預金を持っていても銀行が倒産すればお金が返ってこなくなるので、金(延べ棒)はどうだろうかと思って、新聞の広告を見て、金地金の買い方のパンフレットを送って下さいという葉書を出したところ、商品先物業者の外務員から電話がかかってきて、面談することになりました。
   やって来た外務員は一見ビジネスエリート風で、人がよく、親切そうで、イケメン風。話し上手で、聞き上手。おばあちゃんの話しによく付き合ってくれます。
   おばあちゃんは金の延べ棒を買うつもりですし、実際、何枚か買うことで話しが進んでおり、見本の延べ棒を持参したりもしています。ところが、途中で話しが金の延べ棒ではなく、「先物取引」にすり替わっていたのです。先物取引がどういうものか、現物とどう違うのかもよくわからないまま、契約させられ、その日から取引がスタートすることになりました。
 その後、外務員に言われるままにドンドンと取引を拡大させ、おばあちゃんのお金だけでなく、旦那さんの株を売却させられたり、あるいは生命保険から借入させられたりして、わずか1ヶ月足らずの間に5000万円以上の損害を被ることになったのです。
(2)次はサラリーマンのケースです。
  会社を一旦、退職し、関連会社に嘱託で働いているような初老の男性で、田舎から都会に出てきて、郷里を離れて数十年、頑張って働いてきたが、そろそろ、体も少ししんどく感じられるようになった、子供も自立した、そろそろ郷里が恋しい、そして(業者からすれば一番大事なことですが)退職金は持っているという方です。
  ある日、勤務先へ電話がかかってきます。「郷里の後輩です、高校の後輩です、田舎から関西に出てきて、頑張っているのですが、仕事が大変で、疲れた時、郷里のことを考えることがあるのですが、同窓会名簿を見たら、先輩が近くの神戸に住んでおられることを知り、どうしても話しがしたくて、お電話しました」と。
  会ってみると一見好青年風で、夏の暑い日に汗を拭き拭きやってくる。いきなり勧誘にはいらない。まずは名刺交換,「こんな会社に勤めているので、また機会があれば…」。そして田舎の話しをしてその日は分かれる。
   しばらくして、突然の電話が入ります。「私はこんなに興奮したことはありません、絶好のチャンスです。今注文が取れるかどうか分かりませんが、入れるだけ入れてみます。」と絶叫している。「いや待ってくれ」と言えば、「時間がないのでまた電話をします」と言っていったん切る。その後「5枚買えました」と再度の電話。「頼んでいない」と断るが、決着がつかず、夕方、会うことになる。
   夕方、上司と担当者がやってくる。上司いわく、「既に注文してしまったので取り消せない」、「電話でハイと答えた。録音してある」、「裁判しても勝ち目はない」などと言われ、30万円程度ならいいかと結局契約することになる。
   その後、言われるままに頻繁に売買され、3000万円の損害を出すことになります。かかった手数料が実に4000万円。

4, 商品取引所法が改正され、平成17年5月から施行されるようになりました。いくつか紹介すると、勧誘の際には、必ず会社名と先物取引の勧誘であることを明示しなければならず、その上で、顧客が勧誘を受ける意思があることを確認しなければならないとされました。また顧客が「取引をしない」と言っている顧客を再度勧誘してはならないとも規定されました。迷惑な時間帯(早朝夜間、勤務時間)や長時間にわたる勧誘も禁止されました。当たり前のことばかりですが、ようやく法律で規定されることになったのです。
  この結果か、商品先物業界の売上は前年度に比べて3割程度減少したとのことです。

5, 最後に先物取引について対策と被害の回復について述べます。
  まず第1は勧誘されてもはっきり断ることです。商品取引所法改正で、先物取引の勧誘を受ける意思がないと言えばそれ以上は勧誘できないのですから、勇気を持って断ることです。
  第2は、1人で悩まない。早めに相談することです。断り切れず、取引を始め、損が出たとします。損が出ていることは人に言いたくないのが普通です。子供に言えばしかられる。夫なら怒鳴るかもしれません。その気持ちは、それはそのとおりだと思います。しかし、1人でいると、相手の思う壺です。それは人生経験があっても、社会経験があっても同じです。なぜなら、人生経験があったとしても、社会経験があってとしても、このような体験はかつて経験したことがないからです。「専門家の私に任せて下さい」と言われれば、すがるしかない。言われるがままになります。
  この点について、平成14年3月29日千葉地裁木更津支部判決がそうした人の心理をうまく表現しています。いわく「例えるならば、危険な道を、目隠しをされたまま営業外務員の手に引かれて歩むようなものであり、営業外務員の導くまま歩いていたところ、つまづいて倒れた場合にその不安と恐怖から、より営業外務員の手にしがみつくという心理が働くものである。その段階で営業外務員を責め、その手を振り解かれれば、自力ではどのような方向に進んでよいかもわからず、この間に投資した全ての資金を失う不安と恐怖を味わうのである」。
  そんなときは、誰でもいいから近くにいる人にまず相談することです。人に相談すれば、必ず「止めろ」と助言がある。「取引を続けろ」という人はまずいません。人のことであれば冷静に判断できるからです。助言があれば「ふんぎり」がつきます。背中を押してもらうことが必要です。
  しかし、顧客が「止める」と言っても業者がなかなか止めさせてくれないケースもあります。そんな時は弁護士に依頼するのが賢明です。ある顧客の方がご自分で手仕舞いしますとの内容証明郵便を出したのですが、その書面が届いた日に業者が自宅に来て、再度取引を始めるという念書を取られ、再開したケースがありました。
  第3の注意点は、「非弁グループ」に注意する必要があるということです。非弁というのは弁護士でなければできないような交渉等を弁護士資格なしに行うことをいい、法律で禁止されています。
  先物被害は必ず弁護士、先物取引被害救済に強い弁護士に相談することが必要だと思います。先物取引被害救済については全国各地に先物取引被害救済の研究会があり、年に2回、全国から集まって全国研究会を開催しています。医師でいえば学会のようなものです。そういう研究会に所属する弁護士に相談されることを勧めます。神戸でいえば神戸先物被害研究会、姫路には姫路先物被害研究会があります。
  「先物取引被害」をネットで検索すると、被害救済を名乗る非弁グループがたくさんあります。多数の2次被害が出ているのではないかと危惧されますが、そのようなグループには交渉する資格がないのですから、仮に業者と交渉をしているとすれば違法ですし、交渉(訴訟を含む)をしないということであれば被害回復はできないのですから無意味であり、そのような連中を相手にしていいことは1つもないと思います。

以上

弁護士内橋一郎
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