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2008.05.07 コラム一覧に戻る
先物被害訴訟のストラテジーE 情報提供義務について考える
−05年12月金暴落事件を素材として(下)
《平成20年3月28日 第59回先物取引被害全国研究会(山形大会)での講演から》

臨時増証拠金賦課についての情報提供義務に関する2つの判例
 臨時増証拠金に関する情報提供義務については,最近,二つの判例が出ています。
 一つは神戸地裁平成20年1月18日判決で,「臨時増証拠金の目的から,相場の過熱を沈静化し,波乱相場から投機家を離脱させることであり,価格上昇局面では例外的な事情がない限り,臨時増証拠金の徴収により,価格は下落することが多いのだから,それについて伝達すべきであるし,仕切りの助言をすべきだ」ということです。
 臨時増証拠金を課せられたときに,本当に下がるのかどうかということについては議論がありうるようです。実際の例のなかでも,そうではない稀なケースもあるようですけれども,その趣旨に照らして考えてみれば,上昇局面ではふつう下がるということになるのではないかと思います。
 もう一つが,札幌高裁平成20年1月25日判決です。ちょっと読ませていただきます。
 「平成17年12月時点において,ロコ・ロンドン市場と東京市場の金の価格差は過去に例を見ないほど大きくなり,東京市場の独歩高が連続する状況にあったのだから,早晩東京価格が下落する形で両者の乖離が解消されることが予想された。そして,その状況を踏まえて,東京工業品取引所では,9日に臨時の委員会が開催され,市場動向を注意深く監視することを確認するなど,金市場の加熱への対策を講じ始め,同月12日の本件取引がなされた直後に,臨時増証拠金の預託が決定されている。そして,本件取引の対象となった平成18年10月限月の金先物の総取組高は過去に例を見ないほど大量のものであり,その買玉の大部分を一般の委託者が有していたことからすると,いったん金価格が下落するとともに,上記臨時増証拠金が課されると,資金力のない買いポジションの一般委託者は,差金決済をして取引から離脱せざるを得ず,これがさらなる買玉の仕切注文を誘発し,価格暴落をもたらすことが予想される状況にあり,このような状況に至れば,仕切注文を出してもストップ安が連続して仕切ができず,損失が拡大する可能性があったと認められる。かかる事実は,まさしく,消費者契約法4条2項が予定する「不利益事実」の告知に該当する」ということです。
 本当に素晴らしい判決だと思います。背景事情の立証のスケールと厚みがすごいなと思いました。

情報提供をしない裏側で,業者は何をしていたのか
 これまで情報提供されなかった委託者の立場からみて,情報提供義務について考えてきたのですが,情報提供をしない裏側で,業者が何をしていたのかということについても,考えていけたらと思います。
 12日に,14日から臨時増証拠金がかかるということが決まったのですが,では13日に業者はどういう動きをしたのかということを見てみます。
 ある業者の13日の自己玉を見るとすべて売玉で,しかも13日には,600枚近い枚数が建っています。この業者の12月に入ってからの自己玉売りは概ね100枚から300枚ですから,普段の何倍もの取引量です。
 では,これがどういう時間に入っているかというと,8時35分ぐらいから,50枚,20枚,20枚,30枚,100枚,100枚というふうに入っていって,10時過ぎには,500枚以上の建玉ができているわけです。つまり,委託玉の動静を見た上での,いわゆる場勘ヘッジのための帳尻合わせをしたのではなく,早い時間帯から,臨時増証拠金が14日から課せられることにより価格が下がると見て,売玉を建てに出ているということが,ここから読み取れると思います。
 ではもう一方の委託玉はどういう動きをしたのかということです。売玉ももちろんあるのですが,でも1枚,4枚,10枚程度で,ほとんどが買玉に集中しています。買いも8時45分から始まって,10時過ぎぐらいまでにほとんどの玉が買いに入っています。つまり,顧客の委託玉のほうは,臨時増証拠金がかかるということや,あるいは,臨時増証拠金がかかったら値段が下がるのだという情報提供をされないまま,買玉を建てさせられていたのではないかと推測されるわけです。
 たしかに買いの仕切り,つまり売り落ちもあるのですが,時間や枚数を見ると,要するに限月の買い直しをさせられているケースが多いのではないかと思います。ちょうど仕切りの直後に,同じような枚数の買い新規が入っていたりするわけです。
 このことから言えることは,業者のほうは,もう下がるのは確実だと見て,自己玉をいつもの何倍もの枚数を売りに入れてきている。顧客の委託玉のほうは,全然そんなことを知らされないまま買い増しさせられている。あるいは,買い直しをさせられている。
 では,相場の動きはどうだったかということですが,その日,始まり値は2,080円とすごく安いのですが,どんどん値が上がっていって,9時26分にはその日の最高値2,150円までいっている。前日の最高値が2,155円ですので,ほとんどそこに近いところまで上がってきています。だから,いまお話した,ある業者の場合,委託玉が買いに集中しているのですが,それだけではなく,ほかの業者もまた委託者に買玉を主導していたのではないかと推測されるわけです。
 その業者は,この13日と14日の2日間の売新規建玉により,自己玉の年間売り上げの約3割を稼いでいます。
 それに対して,委託玉のほうはどうだったかというと,結局,私の担当したケースでは,委託者が価格下落を知ったのは14日です。そして14日〜15日にかけて両建にさせられています。「本当は,同一限月の方がいいのですが,なかなか手に入らないので」というようなことを言われて,いったん限月両建にさせられる。その後,さらに,「やはり安心するためには,同一限月のほうがいいです」と言われ,限月を変えて,同一限月にさせられているわけです。ここにおいて客殺しが完成するわけです。

まとめ
 つまり,この情報提供をしなかったということと,その裏側で業者が何をしていたかということは,一つの行為の表と裏ではないかと思うのです。委託者側から見るか,業者側から見るかということだと思うのです。
 行為の違法性というのは,情報提供をしないということだけからも基礎付けられますけれども,それだけではなく,業者の側から眺めてみることによって,その情報提供をしなかったことの本当の意味が明らかになるのではないかと思います。
 つまり,たまには裏から眺めてみることも必要なのではないかということです。それが第4の戦略です。

(内橋一郎)

以上

弁護士内橋一郎
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