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2008.05.12 コラム一覧に戻る
先物被害訴訟のストラテジーG 自己決定と過失相殺
《平成20年3月28日 第59回先物取引被害全国研究会(山形大会)での講演から》

過失相殺否定例と相殺率の低下傾向
 6つのテーマは過失相殺です。
 国内公設市場の取引で過失相殺を否定した判例を集めてみました。平成10年から19年まで,10年間で45例ありますが,45例中24例が,この2年間で出ているということです。
 ここ2年間の過失相殺なし判例の増加ぶりというのは著しいと思います。
 それとともに,過失相殺率が,やはり一般的に減ってきているのではないかと思います。
 同じ神戸地裁の,同じ係属部における,平成16年2月5日判決と平成18年12月19日判決と比較してみたいと思います。いずれのケースも原告は70代の高齢者です。平成16年判決が女性で,18年判決は男性です。被告は金取引で有名なA社です。従いまして,取引も大体,金を中心とした貴金属です。損害額も5千万円ないし4千万円です。やはり同じように適合性原則や新規委託者保護義務違反が問われた事案です。
 しかし平成16年のケースでは,20パーセントの過失相殺をされ,18年のケースでは,過失相殺が否定されています。
 どこにこの違いがあるかおわかりですか。何か間違い探しのようになりますが。
 答えは括弧の中にあるのです。原告代理人です。平成16年判決の代理人は,内橋,武本,辰巳,村上ですが,18年判決は武本,辰巳,村上で,内橋が入っているケースでは過失相殺されていますが,内橋が抜けると,見事過失相殺なし判決となるわけです(笑)。
 過失相殺理由を見ていただきたいと思います。平成16年判決では,「外務員の説明を聞け,それで理解ができなければ帰って息子たちに相談しろ」としています。老いては子に従えということです。
 それに対して平成18年判決の場合,「たしかに原告は先物取引に無知で愚かではあったが,そのことを原告の落ち度として損害の何割かを原告に分担させることは,本件取引の経過に照らし,正義にかなうようには見えない」としています。
 上の判決はいわば倫理観です。倫理観に基づいて過失相殺をする。下の判決は,正義の観念に照らして過失相殺を否定している。この対比は倫理モデルと正義モデルと言えるかもしれません。「ジャッジはジャスティスに由来する」と聞きますが,やはり過失相殺における公平とは正義を意味すべきであると考えます。

和解率の向上と相殺理由の実質化
 過失相殺率は,一般的に減る傾向にあるだろうということをお話ししました。
 それに反応するようにして,やはり和解率が上がってきていると思います。和解というと,多少譲歩することも多いのですが,最近は100パーセントを超える和解例があるというように聞きます。
 それと呼応しますが,過失相殺事由が,かなり実質化してきていると言えると思います。どの判決理由を見ても,過失相殺する場合は,少なくともなぜ過失相殺するのかという理由付けがなされている。感情的な,気分的な相殺論から,論理的な相殺論に変わりつつあると思います。

判例の到達点
 そうした判例のなかで,いま到達点としてベスト2を選ぶとすれば,大阪高裁の平成18年9月15日判決と,大阪地裁の平成18年10月19日判決ではないかと思います。
 とてもいい判決ですので,ちょっと長くなりますが,大阪高裁判決を読みます。「故意の不法行為は加害者が悪意をもって一方的に被害者に対して仕掛けるものであり,根本的に被害者に生じた痛みをともに分け合うための基礎を欠く上,取引的不法行為における加害者の故意は通常,被害者の落ち度或いは弱み,不意,不用意,不注意,未熟,無能,無知,愚昧等に向けられ,それらにつけ込むものであるから,被害者が加害者の思惑通りに落ち度等を示したからといって,これをもって被害者の過失と評価し,被害者の加害者に対する損害賠償から被害者の落ち度等相当分を減額することになれば,加害者としては被害者の落ち度等を指摘しさえすれば,必ず不法行為の成果をその分確保することができることになるが,そのような事態を容認することは結果として不法行為のやり得を保証するに等しく,故意の不法行為を助長,支援,奨励するにも似て,明らかに正義と法の精神に反するからである。」
 とてもいいですね。毎日これを読んでいるとすごく良いことがありそうです。『声に出して読みたい過失相殺』(笑)。
 大阪地裁判決もとてもいいです。「本件取引は,原告従業員らが被告の無知,無経験に乗じて本件取引について断定的判断の提供等の違法行為を行い,それによって原告が著しく過大な利得を得たものといえ,暴利行為として公序良俗に反するとの評価がされるのと同時に,本件取引については,原告従業員らによる被告に対する故意の詐欺的取引と同視することが容易に可能である。そして,そのような場合には,加害者である原告従業員らによる詐欺的行為(例えば適合性の原則違反等や断定的判断の提供といった行為)は,被害者である被告の過失を導くことに向けられていると考えられるのであって,そのような場合にまで過失相殺をすることは,損害の公平な分担という過失相殺の理念に照らしても,到底許されないというべきである。」
 被害者の落ち度に向けられた行為というのは,ここの先物取引の本質だということに着目して過失相殺を否定している例です。

過失相殺否定のツール
 『先物取引被害と過失相殺』という本があります。平田元秀弁護士をチームリーダーとして,広島の大植伸弁護士,京都の加藤進一郎弁護士,姫路の土居由佳弁護士と一緒に研究会を平成16年頃させていただいて,本も出版いたしました。
 過失相殺論は,違法性論の表裏の関係に立つと思いますが,やはり先物被害事件救済において過失相殺が本丸であるとすれば,外務員らの悪辣さ,不誠実さを強調するとともに,委託者のほうは外務員のいうところに従うことが無理のない立場に置かれていたのだということを,原告本人尋問等で丁寧にしゃべってもらうことが必要ではないかと思っています。

(内橋一郎)

以上

弁護士内橋一郎
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