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2008.07.02 コラム一覧に戻る
溺水事故と保険金請求について考える 〜最高裁平成19年7月6日判決及び同年10月19日判決を素材として
1,はじめに

 高齢者の溺水事故に関する保険金請求の問題については、このコラムで何度か書いてきましたが、この問題に重要な関連性ある最高裁判決が相次いで出ましたので、ご紹介します。平成19年7月6日判決と同年10月19日判決がそれです。 
 いずれも傷害保険における外来性要件について述べており、高齢者の溺水事故と保険金請求の問題を考える上で重要です。

   
2,平成19年7月6日判決について

(1) 最高裁平成19年7月6日判決については、このコラム(7月24日付け)で紹介しました。
 餅を喉に詰めて窒息し、直ちに病院で蘇生措置を受けたものの、低酸素脳症による意識障害が残り、常に介護を要する状態になった方(Aさんといいます)の側から、災害補償金の請求を受けた中小企業災害補償共済が「本件事故はAさんの疾病が原因として生じたものであり、外来の事故で傷害を受けたものではない」として支払いを拒否し、上告していた事件について、最高裁は、請求者は外部からの作用による事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張立証すれば足り、被共済者の傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものではないことまで主張立証すべき責任を負うものではないとし、喉詰めがAさんの身体の外部からの作用による事故にあたること、本件事故と傷害(低酸素脳症)の間に相当因果関係があることは明らかであるから、Aさんは外来の事故により、傷害を受けたと言うべきであるとして、共済側の上告を棄却しました。
 この事案では、災害保証金の規約が支払事由として、被共済者が「急激かつ偶然の外来の事故で身体に傷害を受けた」ことと定めている一方で、補償の免責規定として被共済者の「疾病によって生じた傷害については補償費を支払わない」旨の免責規定を置いているというケースでした。

(2) 7月24日付けのコラムで、私は次のように書きました。
 「約款では、請求する側が、外来の事故と傷害との間に相当因果関係を立証したとしても、被共済者(被保険者)の疾病等によって傷害であることを共済側が立証できた場合については免責されるのですが、疾病を直接的な原因として傷害を生じた場合には外来の事故と傷害との間の相当因果関係が否定されるので、免責規定はそもそも妥当しないことになります。したがって、免責規定が意味を持つのは、疾病が原因となって外来的な事故を招いた場合に限られることになるはずです(中略)。
 では、このような免責規定がない場合にはどう考えるべきでしょうか。被保険者の疾病が原因(間接原因)となって外来の事故を招き、外来の事故により傷害が生じた時の問題です。私は疾患による発作が生じた場所が悪かったために外来的力が作用した場合等には保険金の支払いを肯定すべきであるとする見解が正しいと考えます(中略)。
 なぜなら(中略)最高裁7月6日判決は、請求者側は外来の事故と傷害との間の相当因果関係を主張証明すれば足り、疾病から傷害が生じた時は免責するとの免責規定は共済(保険会社)側が主張証明すべきであると、請求原因と抗弁事由に振り分け、峻別する考え方を採りましたが、その最高裁の考え方からすれば、免責規定がない以上は、抗弁が認められないと考えられるからです。」


3,平成19年10月19日判決

(1) 平成19年10月19日の事案は、自動車を運転していた方がため池に転落して溺死した事故について、なくなった方(甲さんといいます)の相続人が保険会社に対し、自動車総合保険契約の人身傷害補償特約に基づき保険金請求したものです。
 この保険の約款では、急激かつ偶然な外来の事故のうち自動車の運行に起因する事故及び運行中の事故(以下では併せて「運行事故」といいます)に該当するものを保険事故とするものですが、7月6日判決の事案のように、疾病によって生じた傷害については補償費を支払わない旨の疾病免責規定は存在しないケースでした。

(2) この点について原審である高松高裁は、@ここにいう「外来の事故」とは事故の原因が被保険者の身体の内部にあるのではなく、外部からの作用にあることをいい、被保険者の身体疾患等内部的原因による事故は外来の事故ではなく、従って身体疾患等の内部的原因による事故でないことについて、保険金請求者が主張立証すべきである、A本件事故は甲さんの既往症及び事故態様等を考慮すると、甲さんが狭心症による発作等の身体疾患に起因した意識障害により適切な運転操作ができなくなったために発生したものである疑いが強く、本件事故は「外来の事故」であることの立証がされたとはいえないとして、相続人の請求を棄却しました。

(3) これに対し、最高裁判所は@「外来の事故」とは、その文言上、被保険者の身体の外部からの作用による事故をいうと解されるので(平成19年7月6日判決)、被保険者の疾病によって生じた運行事故もこれに該当する、A本件の約款は、疾病免責条項を置いていない等から、運行事故が被保険者の疾病によって生じた場合であっても保険金を支払うこととしていると解せられる、Bこのような約款の文言や構造等に照らせば、保険金請求者は運行事故と被保険者がその身体に被った傷害との間に相当因果関係があることを主張立証すれば足りるというべきであるとして、相続人の保険金請求を棄却した高松高裁判決を破棄しました。

(4) 7月24日付けコラムで、私は「請求者側は外来の事故と傷害との間の相当因果関係を主張証明すれば足り、疾病から傷害が生じた時は免責するとの免責規定は共済(保険会社)側が主張証明すべきであるとする最高裁は、請求原因と抗弁事由に振り分け、峻別する考え方を採るものであり、その最高裁の考え方からすれば、免責規定がない以上は、抗弁が認められないと考えられる」としましたが、10月19日判決はまさに7月24日のコラムで書いたとおりの結論でした。


4,まとめ

 平成19年10月19日判決は、自動車総合保険契約の人身傷害補償特約ですので、保険事故が「運行事故」になっていますが、「外来性」の要件が問題となっている点では、傷害保険や生命保険における災害割増特約(性質は傷害保険)の場合も同じです。最高裁判決の「運行事故」を「溺水事故」に読み替えれば、基本的な考え方は妥当するのであって、死因が溺水(溺死)であることを保険金請求者が立証すれば、溺死が被保険者の疾病によって生じたものであっても、保険金は支払われなければならないはずです。
 10月19日判決は、疾病免責条項が存在しない場合に関する判断で、この場合は保険金請求者は事故と被保険者の傷害との間に相当因果関係があることを主張立証すれば足り、仮に事故が被保険者の疾病によって生じた時でも、保険金は支払われなければなりません。
 7月6日判決は、疾病免責条項が存在する場合に関する判断で、この場合、保険金請求者は事故と被共済者の傷害との間に相当因果関係があることを主張立証すれば足り、被共済者の傷害が被共済者の疾病を原因として生じたものではないことまで主張立証すべき責任を負うものではなく、共済側が疾病を原因としたものであることを主張立証してはじめて免責されるとするものです。
 2つの最高裁判決の理論を溺水事故に及ぼした場合、@疾病免責条項がない場合は、保険金請求者が、死因が溺水(溺死)であることを立証すれば足り、仮に溺水の原因が疾病によるものであっても保険金の請求は認められる、A疾病免責条項がある場合でもやはり死因が溺水(溺死)であることを立証すれば足り、保険会社側が溺水(溺死)の原因が疾病によることを立証した場合に免責されるということになると思われます。

(内橋一郎)

以上

弁護士内橋一郎
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